神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

南洋協会が夢見た帝国日本の南洋博物館及び南洋図書館

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 中島俊郎「表象としてのジェームズ・ブルック」の抜刷を御恵投いただきました。ありがとうございます。「土俗研究者にして日本学術探検協会理事長の三吉朋十もチャーチワードのムー大陸に騙された。そして、三島由紀夫も?ーー森谷裕美子「三吉朋十と土俗学」への補足ーー - 神保町系オタオタ日記」で南洋協会に言及したので、参考に送っていただいたようだ。本稿は、「南洋協会の知のシステムがどのように作動していたのか、そして、ジェームズ・ブルック(James Brooke,1803-68)という大英帝国帝国主義的表象がこの協会のなかでいかに連動しているかを検討」したものである。
 南洋協会については、私も「『団体総覧』に見る戦前のおもしろ特種団体 - 神保町系オタオタ日記」で言及したように関心はあったが、詳しく調べていなかった。今回本稿を読んでみると、やはり面白そうな団体である。南洋協会は、大正4年に「南洋ニ於ケル諸般ノ事項ヲ講究シテ相互ノ事情ヲ疎通シ共同ノ福利ヲ増進シ以テ平和文明ニ貢献スルヲ目的」として創立された。本稿に挙がっている規約第3条の事業を見ると、「南洋ニ於ケル産業、制度、社会其他各般ノ事情ヲ調査スルコト」や「南洋ノ事情ヲ本邦ニ紹介スルコト」の他に、注目すべき「南洋博物館及図書館ヲ設クルコト」が規定されている。しかし、この南洋博物館や南洋図書館は、設立されなかったようだ。ネットで読める加藤一夫「日本の旧海外植民地と図書館:東南アジアの図書館接収問題を中心に(未定稿)」『参考書誌研究』49号(国立国会図書館、平成10年3月)は、「この協会が図書館や博物館を設置して運営したという証拠はない」としている。設置されなかったにしても、設置場所や館長、スタッフなどある程度の計画はあったかもしれない。気になるところである*1

*1:『斯文』2巻1号(斯文会、大正9年2月)の彙報欄に南京に設立された南洋図書館に関する記事があるが、無関係だろう。