神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大正12年装幀家としてデビューしていたマヴォイスト牧寿雄ーー五十殿利治「関西『マヴォ』について:牧寿雄と『マヴォ』関西支部」への補足ーー

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 さて五十殿利治「関西『マヴォ』についてーー牧寿雄と『マヴォ』関西支部*1に補足してみよう。五十殿先生は、牧寿雄について、生没年未詳で経歴も不明、『マヴォ』前後の記録だけが判明していることのすべてであるとしている。今回、牧が大正12年には装幀家としてデビューしていたことが判明した。「工繊大の研究者の皆様、『マヴォ』同人牧寿雄の消息を調べて<(_ _)>ーー牧寿雄は分離派建築会作品展を観たかーー - 神保町系オタオタ日記」で既に追記した内容も含まれます。牧が装幀した本を一覧にすると、

松本淳三『二足獣の歌へる:処女詩集』自然社、大正12年3月
前田河広一郎『赤い馬車:創作』自然社、大正12年4月
前田河広一郎『最後に笑ふ者』越山堂、大正13年3月
江原小弥太『我が人生観』越山堂、大正13年4月

 この他、従来知られていたのは、萩原恭次郎『死刑宣告』(長隆舎書店、大正14年10月)に村山知義柳瀬正夢、大浦周蔵、イワノフ・スミヤヴィッチ、岡田龍夫、タトリンらと共に写真図版が掲載されていることである。これは、『マヴォ』7号(長隆舎書店、大正14年8月)掲載の「舞台装置のみによる屋外劇場草案」と同じものである。
 牧は『マヴォ』には5号,大正14年6月から参加、松本は6号,同年7月から参加している。また、『マヴォ創立者の一人で命名者である柳瀬*2は、金子洋文『地獄:創作』(大正12年5月)などの装幀本を自然社から出している。牧は、こうした人脈を経由して同誌に参加したのだろう。
 もう1冊家蔵の本から、牧の装幀本を挙げておこう。『江原小弥太個人雑誌』創刊号(越山堂、大正14年2月)である。目次に「装幀 牧寿雄」とあり、絵にも「maki hisao」のサインがある。
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 越山堂の創立者帆刈芳之助と江原については、小田光雄近代出版史探索』(論創社、令和元年10月)の「174 江原小弥太、越山堂、帆刈芳之助」がある。自然社の発行人である梅津英吉については、不詳で要調査である。『江原小弥太個人雑誌』は、日本近代文学館が22号,大正15年11月まで所蔵している。五十殿先生が論文の増補をする場合は、同誌を全号調べたら何か他にも発見できるかもしれない。
追記:自然社の梅津英吉については、「プロレタリア出版社自然社の梅津英吉 - 神保町系オタオタ日記」で調べていた。

*1:竹村民郎・鈴木貞美『関西モダニズム再考』(思文閣出版、平成20年11月)所収

*2:柳瀬正夢日記に見る鈴蘭 - 神保町系オタオタ日記」参照