神保町系オタオタ日記

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玉川大学出版部の前身イデア書院が創刊した『児童文学』ー玉川大学出版部100周年ー


 今年も後2日ですね。年内にどうしてもアップしておくべきネタが残ってました。ジュンク堂書店池袋本店で2月19日まで「イデア書院→玉川学園出版部→玉川大学出版部100周年フェア」(honto店舗情報 - 【4F人文】玉川大学出版部100周年フェア)を開催中。玉川大学出版部の前身(玉川学園出版部)の前身であるイデア書院は、小川国芳により大正11(1922)年12月25日創立された。したがって、厳密には昨年が創立100周年であるが、実際の出版活動は大正12年からということで今年を100周年としているようだ。
 手元に『児童文学』第1号(イデア書院、大正12年5月初版・同年6月3版)がある。平成29年8月下鴨納涼古本まつりで三密堂書店から200円で入手。貴重な本のようで、玉川大学教育学術情報図書館と神奈川近代文学館が第1号を所蔵しているぐらいだ。
 『玉川学園五十年史』(玉川学園、昭和55年10月)によれば、イデア書院は大正12年1月雑誌『イデア』を創刊し、同年6月頃から子どものための雑誌として『少年文学』*1(高学年)、『児童文学』(中学年)、『コドモ文学』*2(低学年)の3種を創刊した。家蔵の『児童文学』第1号は3版なので、ある程度好評だったのだろう。しかし、時期が悪かった。大正12年は9月1日に関東大震災が発生した年である。そのためであろう、前記『玉川学園五十年史』に、『児童文学』12月号に集金が進まず6千円強もの未収金があり、このままでは継続困難なので休刊したいとの発表があるという。

 目次を挙げておく。著者名がないので一部補足すると、「一房の葡萄」は有島武郎、「山幸彦海幸彦」は奥野庄太郎、「椿の島」は荻原幾太郎、「さんちやんのひよこ」は同誌編集者の斎田喬、「吾等は七人」はウーワズワース、「王様とシヤツ」はトルストイ、「愛の学校」は三浦修吾*3(アミーチス「クオレ」の訳)の作品である。面白いのは、荻原幾太郎は荻原井泉水のことだが、同号には「作者は有名な詩人です。月に吠える。青猫。などの詩集をおもちになつてゐられます」とあり、萩原朔太郞と誤解している。イデア書院は、まだまだ駆け出しの出版社であった。
参考:「『児童百科大辞典』完結で賑わう玉川学園出版部と京都の書道家多和格 - 神保町系オタオタ日記

*1:『日本児童文学大事典』第2巻(大日本図書、平成5年10月)によれば、大正12年5月~11月(6号)まで確認されている。

*2:正しくは、『コドモの文学』か。

*3:杉浦非水装幀のドストエフスキー著・三浦関造訳『カラマゾフの兄弟』(金尾文淵堂、大正3年) - 神保町系オタオタ日記」参照