神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大嘉澤田商店の澤田孝三が創刊した服飾研究雑誌『真美』と上野伊三郎・上野リチ夫妻ーー11月から京都国立近代美術館で「上野リチ展」開催ー

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 南木芳太郎に届いた古書目録『ほんの趣味』については、「『南木芳太郎日記』に記録された岡山の古書店雅楽堂(シゲオ書店)の古書目録『ほんの趣味』ーー岡山市高砂町の古書店主矢部繁雄ーー - 神保町系オタオタ日記」で紹介したところである。今回は、同じく南木の日記*1に出てくるある雑誌について書こう。日記には、次のように出てくる。

(昭和五年)
三月十日 晴 寒
(略)
『真美』三月号、関西信託時報、化粧品商報、浅妻や目録『書好』、上方食道楽豊福氏より原稿依頼。
(略)

 この『真美』は、おそらく京都の真美会から発行された同名の雑誌だろう。私は2冊持っている。1冊は5月の大阪古書会館でシルヴァン書房から200円で購入した11巻2号,昭和9年8月である。目次を挙げておく。
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 ブルーノ・タウト、上野伊三郎訳「キモノに就いて」が掲載されている。タウトの日記*2を見ると、昭和9年4月28日の条に、「澤田氏が自分で編集、刊行している雑誌『真美』のために『キモノについて』という一文を草する」とある。「澤田」は、発行兼編輯人の澤田孝三である。『昭和人名辞典』3巻によると、

澤田孝三 大嘉商店(株)社長 中配代行店 下京区五条通室町西入
大阪府人、明治27年6月生。澤田家を嗣ぐ。
大正11年慶大理財科卒
大嘉商店合資に入り、昭和17年12月改組

 真美会の役員名簿も挙げておく。
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 本野精吾も含め、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)の先生が含まれている。そこで、『建築家・本野精吾展:モダンデザインの先駆者』(京都工芸繊維大学美術工芸資料館、平成22年1月)を見てみると、178頁に出ていた。

 真美会は、京都の染物制作の従事者を会員とし、その技術や人格の向上を図ることを目的として1924年に設立された。京都の五条通室町西入の模様や友禅、染めを専門とした大嘉澤田商店に拠点が置かれた。一年に数度の研究会、染織や着物の試作展を開催し、服飾研究雑誌『真美』を発行し、また会員から募集し選定された基調色や模様を発表し見本帳を配布した。
 本野は、真美会の顧問として活動した。(略)本野以外に、京都高等工芸学校校長だった鶴巻鶴一や村上宇一、古城鴻一、また卒業生で京都染織試験場図案部長だった赤澤鉞太郎らも顧問として活動した。また1927年に設立された日本インターナショナル建築会の代表を務めた建築家の上野伊三郎や、その夫人でデザイナーの上野リチも活動に参加していた。
(略)

 もう1冊は、8巻1号,昭和6年3月である。古書つのぶえで500円。中山岩太が載っていて、500円は安いですね。
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 『真美』は、人気があるようで、「日本の古本屋」に出品された4冊は売り切れている。京都工芸校繊維大学附属図書館にも7巻から15巻までしか所蔵されていない。全貌を知りたい雑誌である。
 なお、平成21年に京都国立近代美術館で「上野伊三郎+リチコレクション展 ウィーンから京都へ、建築から工芸へ」が開催されたが、今年11月から同美術館で「上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」が開催される。「芸術爛熟期のウィーンに生まれ、ウィーン工房の一員として活躍し、結婚を機に日本に移り住んで活動をつづけたデザイナー、上野リチ・リックスの世界で初めての包括的な回顧展として開催されます」とのことで、今から楽しみである。
追記:『そめとおり』262号(染織新報本社、昭和47年9月)の澤田「真美会の生ひ立ち・真善美を追求して・”老若全ての中に花が“」によれば、真美会創立は大正13年3月3日で、真美会規則第2条に「本会は服装に関する凡てを学理と実際の両見地から研究した優秀品を制作す可く努力し、以て会員相互の発展向上に資する事を目的とする」とある。

*1:『南木芳太郎日記一:大阪郷土研究のパイオニア』(大阪市史料調査会、平成21年12月)

*2:タウト、篠田英雄訳『日本:タウトの日記 1934年』(岩波書店、昭和50年)