神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

藪田嘉一郎の古書店文林堂書店が参加した書好会の『書好』ーー『書物関係リトルマガジン集ーー中京・京阪神古本屋編ーー』(金沢文圃閣)で復刻ーー

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昨年11月から12月にかけて、京都新聞の「ウは『京都』のウ」で4回連載(樺山聡記者)された藪田嘉一郎に関する記事には、度肝を抜かれた読者も多かっただろう。松本清張との交流に関しては平成16年北九州市立松本清張記念館の「松本清張『火の路』誕生秘話展」で紹介されてはいたが、在野で化け物みたいに博覧強記だった研究者藪田の全貌を明らかにしたホームラン級の記事であった。記事中に戦後「綜芸種智院」にちなんだ出版社「綜芸舎」を興した藪田について、戦前「古書店を開いたり」していた時期があったとある。店名が記されていないが、河原町荒神口上ルの文林堂書店である。なぜ分かるかというと、京阪神を中心に東京も含む古書店の集まりである書好会に参加していて、同会の機関誌『書好』5号(昭和5年5月)を持っているからである。裏表紙に書好会同人の一覧があるので、挙げておこう。
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この号に、藪田は「古版地図の複製(一)」を書き、藤田元春平安京変遷史:都市研究 附・古地図集』(スズカケ出版部、昭和5年)への感想を述べている。畏友の川勝(政太郎)から出版計画を聞いて真っ先に賛成したという。また、「同人戯伝(二)」には明治堂書店のタケチャンこと三橋猛雄が登場していて参考になる。この昭和5年1月に創刊された『書好』、実は金沢文圃閣から昨年復刻版が出された。『書物関係リトルマガジン集ーー中京・京阪神古本屋編ーー』である。「リトルマガジン」というと戦後の雑誌を想像しかねないが、すべて戦前の古書店関係の古書目録・趣味誌・同人誌である。入手困難な資料が多いので所蔵しておきたいところだが、全7巻・別巻揃いで10万円を超えるので、定額給付金10万円ではちと足りないところである。近くの図書館になければ、リクエストしてみたらよいだろう。
解題は小林昌樹氏。同人の紹介をしているが、若干補足しておこう。
・京都の大学堂杉田古書店 「1925(大正14)年から古書目録を出している」とあるだけだが、「『書物礼讃』を印刷した唐舟屋印刷所の堀尾幸太郎・緋紗子兄妹ーー高橋輝次『古本こぼれ話〈巻外追記集〉』への更なる追記ーー - 神保町系オタオタ日記」で言及した『書物禮讃』の発行が重要だろう。同人では唯一現存している。
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・神戸のロゴス書店 『ロゴス典籍目録』に言及しているが、『ロゴス古典書目』も発行していた。
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・大阪の森谷書房 脇村義太郎『東西書肆街考』(岩波新書)53頁に思文閣の田中新の義兄として大阪の「森谷」という「よい目録」で知られる古本屋が出てくる。
参考:京都の古書店の合同目録『書燈』については、「合同古書目録『書燈』1号(書燈会事務所、昭和8年1月) - 神保町系オタオタ日記」参照