森鴎外の日記に出てくる古書目録について、
「全財産を投げ打って『欽定四庫全書総目』を買った森鴎外 - 神保町系オタオタ日記」で分析したことがある。今回は、『南木芳太郎日記』1(大阪市史調査会、平成21年12月)に出てくる古書店雅楽堂(シゲオ書店)の『ほんの趣味』である。
『ほんの趣味』は、京都古書会館で平成29年9月に開催された古本まつりで大量に入手している*1。1冊200円で、あがたの森書房の出品。1冊当たりの値段が安いので調子に乗って買ってしまったが、まとまるといい値段ですね。第6冊,昭和5年1月15日発行が、日記に出てくる号だろう。岡山市高砂町の雅楽堂発行で、発行者は矢部繁雄。巻頭に詩歌36冊を載せ、最高額は『新体詩歌集』(明治20[ママ]年)の4円。明治の草双紙、雑書、追加(歴史画)がそれに続き、計92冊、18頁の文庫本サイズである。
南木の日記には、その後も到着した『ほんの趣味』が記録されているので、発行日と到着日を一覧にしておこう。
第7冊 昭和5年2月20日発行 同月22日到着
第8冊 昭和5年4月15日発行(シゲオ書店に改称) 日記に記載無し
第9冊 昭和5年5月28日発行 同日到着
第10冊 昭和5年7月3日発行 同日到着
第11冊 昭和5年8月5日発行 同月4日到着(「十一冊目」と明記)
第12冊 昭和5年10月10日発行 同月14日到着
発行日と到着日の関係に法則性はないようだ。第11冊なんかは、発行日より前に到着している。昭和5年の南木の日記には、他にもカズオ書店、森谷書房、荒木伊兵衛書店、大学堂書店、杉本梁江堂などの古書目録が記録されている。南木の地元大阪の古書店の場合は来店して面識があったのだろうが、岡山の雅楽堂のように遠隔地の古書店で面識が無い場合、古書目録はどういう経緯で送られたのだろうか。『昭和前期蒐書家リスト』の書物蔵「昭和前期蒐書家リストの構成と活用法、そしてこれから」によれば、蒐書家名簿は昭和3年から存在していたので、各地の古書店主は名簿を見て送付していたのかもしれない。後年ではあるが、南木の名前、住所、蒐集分野も、『日本蒐書家名簿』(日本古書通信社、昭和13年6月)に掲載されている。
『日本古書目録大年表』(金沢文圃閣)には、「しげを書店(雅楽堂、シゲオ書店)」と立項されていて、『ほんの趣味』は昭和4年5月創刊で、48号,13年11月までは刊行されたことが分かる。店主矢部の経歴は不詳。『岡山市史 美術映画編』(岡山市、昭和37年3月)によれば、浜田町の道具屋の息子で、高砂座(日本初の煉瓦造りの劇場)の入口で渡すニュース『高砂座新報』の編集を手伝ったファンの1人だったという。
また、25号,昭和8年3月の「紙魚のたわごと」に
・『書物展望』3月号に「古本屋経済学」を寄稿*2
・新井声風『明治以降物故新派俳人伝』第1集の恵与を受けた
・平井蒼太『麻尼亜』第4冊を頂いた。あと1冊で完了*3
・畏友桂又三郎*4の岡山民俗叢書第4篇*5が上梓された
とあって人脈の広さが分かる。最後に、31号,昭和9年6月裏表紙掲載の「雑誌創刊号均一」を挙げておこう。タイムマシンに乗って、買い占めに行きたくなるね。