神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

城市郎の唯一の盟友にして稀有の発禁本コレクター藤本済造ーー『水の都の古本展目録』に出現した発禁詩集、児玉花外『社会主義詩集』の写本ーー

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 比叡平への移転へ向けて作業中の書砦・梁山泊京都店で、『季刊「銀花」』7号(文化出版局、昭和46年9月)をゲット。300円。「永田耕衣の句と書と絵」特集だが、それで買ったのではなく、「城市郎旧蔵の『発禁書と言論・出版の自由』(大阪人権歴史資料館) - 神保町系オタオタ日記」で言及した藤本済造と思われる人の投書が載っているので購入。「読者三十言集」に掲載されたもので、挟み込みの「愛読者カード」に書いて送ったもののようだ。問題の投書は、大阪市藤本済造(39歳)によるもので、「書狂にとっても嬉しく楽しくなる雑誌である」とあった。発禁本コレクターだった藤本だろう。
 城市郎が藤本に贈った『悪書のすすめ』(山王書房、昭和43年5月)が手元にある。ここには、「わが唯一の盟友」と書かれている。城は蔵書をネタに発禁本に関する著作を多数残し、蔵書の一部を明治大学に寄贈し、『明治大学図書館所蔵城市郎文庫目録』(明治大学図書館、平成29年3月)が刊行されている。一方、盟友の藤本には著作は見当たらない。ただ、実は藤本は某古書店の御尊父で、蔵書目録は残っていると聞いている。いつか見せてもらいたいものである。ところで、梁山泊で『季刊「銀花」』を買った時に「藤本済造が書いているので、買いました」と言うと、店主の島元さんから驚く話があった。島元さんが岡山から大阪のかっぱ横丁に移転した時に、藤本は浪速書林で働いていたので知っていますよとのことであった。藤本が古書目録「発禁本とその周辺探索」を刊行したこともある浪速書林で働いていたとは、知らなかった。
 中止になってしまった『水の都の古本展』の目録が届いた。モズブックスが発禁詩集である児玉花外『社会主義詩集』(金尾文淵堂、明治36年8月)の写本を出品していた。250万円。金尾文淵堂の店主金尾種次郎が発禁直後に筆写したものと推定されている。さすがの城や藤本も『社会主義詩集』の原本や写本は持っていなかっただろう。金尾の遺族からか、知られざるコレクターから出たのか不明だが、世の中には藤本のようにまだまだ知られていない恐るべきコレクターがいるだろう。モズブックスの解説によれば、今回の写本は、岡野他家夫が昭和24年日本評論社から刊行した復刻版と「字句の異同はかなりの数にのぼる」という。「もっとも原形に近い姿をとどめている写本であろう」ともある。研究機関に納まればいいが、うかうかしてたら在野の蒐集家の手に渡るかもしれない。
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