神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

風船舎で買った小泉與吉の昭和10年創刊『謄写版』(謄写版研究社)に「全国謄写人名簿」

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 風船舎という目録専門の古書店がある。近年超弩級の古書目録を発行して、目録が刊行されると暫く古本者の話題を独占してしまう。千代田図書館平成27年に発行した『16人が紹介する特選古書目録』では、岡崎武志氏が風船舎の目録を選んでいるから、その凄さが分かるだろう。
 今回紹介する謄写版研究社の雑誌『謄写版』創刊号(昭和10年7月)~52号(昭和15年1月)の合冊版2冊は、風船舎の目録から入手したものである。合冊版は、本来の背表紙が見られないし、横に並べて表紙を楽しむことができないし、製本によってはノドの文字が読めなかったりするので、あまり好きではない。しかし、目録に「全国謄写人名簿」掲載とあったので、やや高価ではあったが購入。名簿は、180人(一部は社)の氏名及び住所を掲載。経歴が無いのが物足りないが、何かの役に立つかもしれない。知っている名前は、板祐生(鳥取県)、落合重信(神戸市)、小谷方明(大阪府)、冨樫栄治(大阪市)ぐらいか。印刷所の技術者や趣味で謄写版の雑誌を発行している人などが混在しているようだ。
 落合は、創刊号に「昭和七年頃東京」を執筆。「東京で所謂『芸術院』に三ヶ月程ゐました」という。『歴史と神戸』「落合重信古稀記念号」(昭和58年8月)の年譜によれば、大正元年10月三重県四日市生まれ、昭和10年3月神戸市立図書館勤務。その前の7年3月兵庫県立夜間中学講習所卒業と前後して東京へ出て半年程で戻るとあるので、芸術院にいたのはその時のことか。また、創刊号の「編輯者の言葉」によると、古書肆一輪草書舎屋店主の冨樫は発行人小泉の「畏友」だという。冨樫は『大阪古本市場通信』や『古本と古本屋』を発行していて、書物蔵氏のブログに詳しい。この辺りの人脈が、面白い。
 謄写版の専門雑誌だけあって、表紙が凝っているので幾つか紹介しておこう。
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 昭和13年6月からは、大きさが変わり、表紙に「謄写版趣味雑誌」と入るようになった。趣味誌によくある張り込みもある。蔵書票とか。
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これは、マッチラベルだろうか。
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 編輯印刷兼発行人は、当初は小泉與吉。4年6号・通巻34号(昭和13年6月)の「天六雑信」に「今度、謄写版研究社を清水正行氏に譲渡」したとあり、4年8号・通巻36号(昭和13年8月)からは編輯人小泉、発行人清水となっている。その後、5年6号・通巻46号(昭和14年6月)の「天六雑信」に7月号から本誌は小泉単独で発行する旨予告があり、実際には8月号から小泉が編輯印刷兼発行人となっている。