神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

金魚コレクターの松井佳一が亡き息子に贈った『神を求めて』

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昨年かわじもとたかさんが上洛された際に、お土産として『日本蒐集家名簿』昭和13年版(日本古書通信社昭和13年6月)をいただいた。ありがとうございました。重宝しているが、例えば愛知県の項を見て見よう。92名の人名、住所、蒐集書目・研究事項が掲載されている。そのうち見覚えのある名前を挙げると、

石田元季 名古屋市 国文学、俳諧
惣郷正明 名古屋市朝日新聞社社会部) 幕末維新洋学書
樋口千代松 名古屋市 哲学、教育学
舟橋水哉 豊橋市 仏書
松井佳一 豊橋市 明治中期以前の水産雑誌図書、金魚に関するもの[、]魚一般

石田については「木村鷹太郎も真っ青、名古屋国語国文学会の織田善雄 - 神保町系オタオタ日記」、舟橋については「趣味人をつなぐ豊橋趣味会の舟橋水哉 - 神保町系オタオタ日記」を参照されたい。実は、松井については、ある本に出会うまでは知らなかった。その本に出会ったのは、数年前の西部古書会館の古本市。豊田珍彦『神を求めて』(欣魚荘文庫、昭和8年8月)という本である。棚にポンと置いてあって、タイトルにビビビと来た。中を見たが松井佳一の遺児博の追悼本であった。博の年譜を見ても、大正7年生、昭和8年没、16歳という若さで亡くなっているから、買いたくなるような経歴はなかった。ただ、昭和6年7月「平田式心療法をはじむ」とあるのと、私の好きな非売品、20丁の小冊子で、値段も300円なので拾っておいた。杉波書林出品。
古本漁りの後、古本フレンズ達と一服しながら、本書を書物蔵氏に見せると、あまり関心が無さそうであったが、何気に「発行者は松井佳一という人か」というと、横にいたトム・リバーフィールド氏が「著名なコレクターですよ。金魚関係の」と驚いていた。さすが、同人誌『二級河川』13号(金腐川宴游会)に「蒐集家人名事典(仮)・石川県編」を書いた人である。
松井についてはWikipediaに立項されているので、見られたい。本書は、松井の「上梓についての言葉」によれば、遺児の中学校入学の際の保証人でもあった豊田の稿本『神を語る』が「天皇中心主義による自然科学的宗教観ともいふ可きもの」で、筐底に私せられるのは勿体ないので遺児の冥福を祈るため、その一部を上梓することにしたという。内容に見るべきものはないが、松井佳一というコレクターを知ることができて、拾った甲斐があった。
奥付の「欣魚荘文庫」印の写真もあげておく。「蔵書印データベース」には本印とは異なるが、3件ヒットする。→「蔵書印DB欣魚荘文庫
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