神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

昭和26年東大1年生にして「内外諸名家秘蔵珍稀本展」に出品した松山俊太郎ーー「鶴房竿積」旧蔵?の出陳目録からーー

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 昭和26年11月に日本出版協会が主催した読書週間記念の「内外諸名家秘蔵珍稀本展」については、「『読書週間記念内外諸名家秘蔵珍稀本展出陳目録』 - 神保町系オタオタ日記」で紹介したところである。あらためて、出品者名を挙げると、

木村毅
小倉重勝
内藤政勝(青園荘)
植田秀
吉田小五郎
川田久長
浜田徳太郎
田近憲三
斎藤昌三
庄司浅水
石井宗吉
沢田伊四郎
松山俊太郎
反町茂雄
浜田義一郎
山宮允
本間久雄
野田宇太郎
八木敏夫
宮尾しげを
石井満
ダン・ブラウン*1
日夏耿之介
西村郁郎
ポール・C・ブラム
内田清之助
関野準一郎
日髙只一
久松潜一
五島慶太
渋井清
江島伊兵衛
野村胡堂
酒井宇吉
竹田儀一
佐佐木信綱
石黒敬七
吉田保
小汀利得
岡村千曳

 今も名が残るコレクターが多い。その中に当時はまったく無名だったはずの松山俊太郎がいる。出品した本は、ワイルド著・日夏耿之助訳『サロメ』(蘭台山房)超特製総蛇皮装幀と北原白秋邪宗門』初版・外函付の2冊である。安藤礼二編・解説『松山俊太郎の宇宙』(太田出版平成28年8月)の年譜(丹羽蒼一郎)によると、松山はこの昭和26年に東京大学教養学部文科二類に入学。「大学入学以後の八~九年間は酒と空手と古本漁り以外は何もしなかった」という。また、種村季弘「怪友二十面相の謎」『世界』昭和56年3月号*2には、

 昭和二十七年の古本市にボードレールの『悪の華』の初版本と第二版が出た。鈴木信太郎教授が馳せつけると、何者かがすでに入手しさった後であった。その何者かの名が、岩波文庫版『悪の華』の後記に鈴木教授が明記されている松山俊太郎である。

とあって、学生時代から既に相当の古本者だったことがうかがえる。そのほか、松山は『オスカー・ワイルド全集』3巻(出帆社、昭和51年7月)に「聖なる娼婦、または宝石に覆われた女」を訳している。更に、「タナトスへの親近感」『日本読書新聞』昭和48年10月8日号*3には、「昭和二十二年に「道士月夜の旅」を知ってから十年間、日夏氏はポー、ボードレールと連なるわたくしの精神生活の枢軸であった」とある。これらのことから、珍稀本展出品者の松山とインド学者・幻想文学研究者の松山を同定してよいだろう。
 本人に確認できなかったのが、残念である。「『藻塩草ーー武富義夫さんのことーー』を羨む - 神保町系オタオタ日記」でお世話になった松本彩子さん(結婚して中上彩子さん)は松山と親しかったので、聞いてもらえばよかった……なお、翌年11月にも読書週間記念の「内外優良図書展・現代名家秘蔵珍稀本展」*4が開催されたが、松山の名はない。
 本目録には、「鶴房竿積」(追記:三字目は「𥫱」かとも)という印が押されていた。蔵書印さんの御教示により、読めました。ありがとうございます。「鶴房」が名字で、「竿積」が号だろうか。何者だろう。
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 最後に、西村郁郎出品の鴎外関係のコレクションを挙げておこう。これらは、今どうなっているだろうか。
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*1:ドン・ブラウンと村井弦斎 - 神保町系オタオタ日記」参照

*2:引用は、『綺想礼讃』(国書刊行会、平成22年1月)の付録『栞』への再録による。

*3:引用は、『綺想礼讃』による。

*4:『1952・読書週間内外優良図書展・現代名家秘蔵珍稀本展出品目録』(1952年11月) - 神保町系オタオタ日記」参照