黒岩比佐子さんの『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(講談社)に売文社分裂事件の経緯を書いたパロディ本として登場する遠藤無水『社会主義者になった漱石の猫』。私がこの本の存在を初めて知ったのは、ヨコジュンさんの『日本SFこてん古典』第22回「大正時代のSF」だったと思う。そこでは詳しいことは書かれていないが、黒岩さんが参考文献に挙げている『明治おもしろ博覧会』(西日本新聞社、平成10年3月)第49話「堺枯川と漱石の猫」に詳しく書かれている。ヨコジュンさんは、
明治三年、福岡豊津に士族の三男として生まれた社会主義者・堺枯川(利彦)を、研究者はどう評価しているのか、筆者はよく知らない。ただ拙い調べから頭の中に創りあげた人物像では、主義は別として好きなタイプだ。
と書いている。黒岩さんによると、豊津生まれというのは従来の評伝や年譜の大半が犯している誤りで、正しくは両親が疎開していた豊前国仲津郡松坂だという。黒岩さんはヨコジュンさんに『パンとペン』を献呈されたと思われるが、ヨコジュンさんは今頃読んでおられるだろうか。