神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

三角寛を激怒させた宮本幹也の『魔子恐るべし』

KAWADE道の手帖『サンカ 幻の漂泊民を探して』所収の田中英司「まぼろしのサンカ映画『魔子恐るべし』」によると、鈴木英夫監督の「魔子恐るべし」は昭和29年6月封切り。原作は、宮本幹也の同名の作品で、『東京タイムズ』に28年6月21日から29年7月20日まで連載。桃園書房から29年2月上巻刊行。下巻の刊行は確認できない。なぜか、同年12月大日本雄弁会講談社から上下巻刊行。

三角が福田蘭童「ダイナマイトを喰う山窩」(『別冊小説新潮昭和32年7月)に対し、自分が創造したサンカ用語を盗用したと著作権協議会に訴えた事件については、礫川全次『サンカと三角寛』に詳しい。この事件を報じた朝日新聞掲載の三角のコメントに、「これまでも度々同じケースがあったが、私的に話合いをつけてきた」とあるが、宮本の『魔子恐るべし』もそのようなケースの一つだったことが、伊藤文八郎『紙魚の鼻いき 編集者生活五十年 私的戦後文壇史』(桃園書房、1998年5月)で判明した。伊藤は、戦後鎌倉文庫、博文館、桃園書房筑摩書房、共栄社などで編集者を務めた人物。同書によると、

神田神保町の古本屋街で、大阪警視庁*1の隠語辞典なるものを買い求めた。辞典の中には山窩用語とおぼしきものがあり、これは作家にとっては珍重される資料のものと考え、宮本幹也に贈った。(略)
次の連載は東京タイムズになるが「魔子恐るべし」を発表。これが山窩小説の創設者三角寛の逆鱗にふれたのである。「山窩用語」を無断で使用したということだ。山窩が怒って、抜き見のうめがい(山刃)を預っているという。

伊藤は、宮本に依頼されて、人生坐の三角を訪ね、詫びを入れながらも、山窩用語は三角の独占するものではないことをチクリと入れたという。最初は、「けしからんよ、宮本という男は。俺は宮本が山窩小説を書いたことはかまわないと思っている。でもな、山窩たちが大変に怒っている。大変にだ」と言っていた三角だが、伊藤が戦後三角に山窩小説を二度執筆してもらっていたという関係もあってか、この一件は伊藤の訪問で解決したという。

他の作家が自分の縄張りの山窩小説に手を出すと、サンカが怒っているとか、「山窩用語」の盗用だと騒いだ三角。雑司ヶ谷の怪人とも言うべき存在の一人だ。

(参考)『魔子恐るべし』は小説としては面白くはないが、ヒロインの魔子はサンカの娘で、「セブリ(瀬降)」、「テンバ(転場)」、「サイギョウ(密報)」、「ウメガイ(山刃)」など「山窩用語」が出てくるサンカ小説である。他のサンカ小説については、2007年6月27日同年8月5日

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京都新聞にも出てたようだが、明日は一箱古本列車の日だ。

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トンデモ本大賞」の日だが、当日券はないらしい。

*1:正しくは、大阪府警察部か。