神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

サンカから石亀を買う三好達治


三好達治は、明治33年8月に大阪で生まれ、39年から四、五年兵庫県有馬郡三田町の祖父母のもとで暮らしていた。この時にサンカの女が売りに来た石亀を祖母に買ってもらった思い出を「石亀」に書いている。

ある晩秋の日暮れ近い時刻であつた。髪をひつつめにした、眼つきの鋭い、貧しげな、背たけの高い女が門口を入つてきた。(略)
−あれはサンカだよ・・・
女が門を出て行くと、祖母はさう小声で私に囁いた。サンカ(山窩)、私は意味の分らないその言葉をその時初めて耳にした。さうして何やら、気味の悪い怖れを覚えた。
(略)
私は二匹の石亀と数日仲よしで暮してゐた。サンカはどこかの山奥で、こんな亀のふんだんにゐる谷間か何かで、木魂のやうに暮してゐるのだらうと思はれた。


文人とサンカと関わりについては、既に幾つかの例を紹介したが、三好も幼少期にサンカと遭遇していたとは。

                                                  • -


中央公論』12月号に小谷野敦「作家見習いの記 私小説のすすめ」。小説とともに「企業秘密」の著作の方もよろしくお願いします。