神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

「さぼうる」で夢の古本合戦(その5)

書誌鳥さん:「満を持して、我輩の登場かな。昭和15年10月岡倉書房から発行の『世界人と日本人』。著者は大槻憲二。精神分析学者、文芸評論家だよ」
 

ジュンク堂の怪人:「江戸川乱歩の『わが夢と真実』収録の「精神分析研究会」によると、昭和8年初め頃創立された大槻主宰の精神分析研究会は、乱歩もメンバーだったそうですね」


書誌鳥さん「そうそう。本書には、ドイツ語をマスターして、難解なフロイド全集を5年の歳月を費やして殆ど単身で翻訳したと書いてあるけれど、その春陽堂版のフロイド全集を乱歩は愛読したことが、『わが夢と真実』に出てくるね」


神保町のオタ:「岡倉書房といえば、『南洋諸島の古代文化』も岡倉書房だよ。それと、未見だけど、大槻は、昭和18年に『科学的皇道世界観』を東京精神分析研究所出版部から発行しているみたい」


書物奉行さん:「なんぞ、おもろい事が書いてあるだすか?」


書誌鳥さん:「本書でヒトラーとか、ムッソリーニ精神分析をしているんだけど、特にヒトラー批判が強烈。『今次の獨ソ不可侵条約とポーランド侵略とは、彼が國民の自我たるに成功しても良心に價しないことを暴露したものとして、彼の失脚の第一歩であることを私は確信ゐるものである』とか、『所詮彼の運命は太く短く華やかなものとして終始するのではないかを虞れる』とか書いている。よく、ここまで書けたものだ。更には、『忘れてならないのは、まづヒトラーが『わが闘争』中でわが日本を極力罵倒してゐる事だ』ということまで、明らかにしているのだ」


書物奉行さん:「ちょうど、わすも先日、戦前、『わが闘争』で日本人は猿並みと書いてある箇所が日本語訳で落ちていたという話を書いたところだす」


書誌鳥さん:「書物奉行さんがいることだし、少しでも皇道図書館に関係しそうな話をしようか。先日、神保町のオタさんが、名前を挙げた島田春雄、森本忠らが中心になって、昭和17年に創立した「国語国字改良反対の反動団体」であったといわれる、「日本国語会」の創立発起人の中には、頭山満大川周明笹川良一のほか、おもしろい所では、海野十三国枝史郎生方敏郎、本間久雄、尾佐竹猛牧野富太郎といった名前があるほか、皇道図書館名誉顧問である、今泉定助、山岡萬之助の両名とともに、大槻憲二の名前もあるのだよ」


書物奉行さん:「それは、おもしろいだすね」


神保町のオタさん:「書誌鳥さんは、オールラウンドに堪能だからいいですが、『はてな』には国文の方が多そうなので、あまり国語論に手を出すと、袋叩きに遭いそうなので、深入りしない方がいいでしょう」


書誌鳥さん:「そうか。それでは、その他のメンバーには、竹内文献の信奉者とされる、一条実孝公爵、後に東京裁判の日本側弁護団団長となる鵜澤總明弁護士、高窪喜八郎弁護士、赤池濃元警視総監の名前も見えることだけ付け加えておこう。島田とは呉越同舟だね」


ジュンク堂の怪人さん:「大槻は、萩原朔太郎の『月に吠える』の挿画を恩地孝四郎とともにしている田中恭吉とも関係があるそうですね」


書誌鳥さん:「そうだね。大槻は、1913年から1914年にかけて田中と、根津や池袋で同居しているね。『田中恭吉作品集』に大槻の「田中恭吉小伝」が収録されているよ。大槻は、早稲田大学文学部に入学する前は洋画家を目指す東京美術学校の生徒という経歴があるのだ」


ジュンク堂の怪人:「和歌山県立近代美術館で開催された田中恭吉展は、見に行きましたよ」


書誌鳥さん:「大槻については、遺族から早稲田大学に資料が寄贈され、昨年図書館の新収資料展で一部展示もされたところだ。今後の研究の進展が楽しみ」


セドローさん:「書誌鳥さん一人でずーっと引っ張るから、自分の出番がなくなっちゃうよ!」


追記:日本国語会の創立発起人の中には、小泉又次郎小泉純也小泉首相の祖父、父)の名前も見られる。

   「日本古書通信」平成15年12月号に「古本屋散策21 フロイトの邦訳と大槻憲二(小田光雄)」が掲載されている。



(以下続く)

*余計見にくくなったってか。わすは、もうしらん・・・