神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

国教宣明団から酒井勝軍『太古日本のピラミツド』発行の案内状ー皇明会の四宮憲章宛ー


 昨年12月平安蚤の市で酒井勝軍『太古日本のピラミツド』(国教宣明団、昭和9年7月)発行の案内状を購入した。pieinthesky氏からで、1,000円。近代ピラミッド協会創立のきっかけとなった武内裕『日本のピラミッド』(大陸書房、昭和50年12月)がセンセーショナルに再評価した『太古日本のピラミツド』の案内状となると、買わざるを得ない。
 葉書の文面は
・去る4月末広島県比婆郡で2万2千年前のピラミッドを発見
・従来の万国史を根底から覆すべきもので、僅か1ヶ月で日々数百人の参拝者を見るに至り、最近では千名を超す勢い
・この発見は、日本天皇の世界君臨を裏書きするものなので、同志の援助により1日も早く本書を普及させたく案内を呈上
・7月20日までに発行予定
などが記載されている。広島県で葦嶽山ピラミッドが発見されたのは、昭和9年4月23日で、『太古日本のピラミツド』が発行されたのは同年7月25日である。
 宛先は、豊島区巣鴨の四宮憲章である。四宮は記憶にない人物だ。しかし、藤原明『幻影の偽書竹内文献』と竹内巨麿超国家主義の妖怪』(河出書房新社、令和2年1月)89・90頁に出ていた。

(略)巨麿の前に、昭和九年のこと、大阪で皇国日報社を経営する木村錦洲(本名準治)が、「皇祖皇太神宮は必ず再興してみせる。本を書いて大いに世界に紹介してやろう」と大風呂敷きをひろげた。木村と巨麿の出会いはこのときがはじめてではない。昭和六、七年頃に酒井勝軍のシンパの一人、立憲民政党衆議院議員中村嘉壽(一八八〇~一九六五)に連れられて神宝を拝観した時からである。昭和七年に木村が発行した『皇国神典』によると、この当時海軍元帥東郷平八郎を最高顧問とする皇明会(会長は、国学者漢詩人の四宮憲章)と連盟して活動。巨麿に本の出版を持ちかけた昭和九年前後には、大阪神代秘史研究会という団体の有力メンバーの一人として活躍、東郷平八郎や四国剣山のソロモン秘宝の発掘に乗り出した海軍の山本英輔*1(略)など、軍の将官とも親交を有していた。(略)

 四宮は、『大日本神皇記』(皇国日報社、昭和9年5月)を刊行した木村と親しかったようだ。酒井は、こうした竹内文献の信奉者を通して四宮と知り合ったのだろう*2
 四宮が会長を務めた皇明会について、栂坂昌業編『団体総覧』(大日本帝国産業総聯盟団体研究所、昭和9年9月)から要約しよう。なお、所在地の地番は省略したが、葉書の宛先と一致している。

皇明会 東京市豊島区巣鴨町
創立 大正8年2月11日
目的 本会は、皇国の意義を闡明し、国体の精華を宣揚するを以て目的とす。
綱領 一、我国体の淵源に則り皇国たるの真意義を明にする事
   二、我惟神の皇道に則り、敬神、尊皇、愛国の旨を明にする事
   三~五 略 
役員 代表 四宮憲章

 また、四宮の経歴は『日本現今人名辞典』(日本現今人名辞典発行所、訂正2版明治34年12月)に出ていた*3。要約すると、

四宮憲章(しのみや・けんしやう) 
慶応3年阿波郡尾開村*4に阿州藩儒四宮哲夫の三男として生まれる。号鳴洲。
20歳で東上して、三島中洲の門に遊び、後高等師範学校を卒業し教育事業に従事。
明治文学会を創立し、雑誌『明治文学』*5主筆たり。
著作 『明治詩文大成』、『作詩法講義』など

 この頃は、教育者、文学者だったが、後には極端な国家主義者になったことになる。国家主義者としての側面は、長谷川亮一『「皇国史観」という問題:十五年戦争期における文部省の修史事業と思想統制政策』(白澤社、平成20年1月)に出てくる。昭和10年2月7日衆議院に提出された「皇国国体号確立ニ関スル請願」の請願者として紹介されている。当時の肩書きは、法政大学・二松学舎教授であった。
 四宮は、酒井とそれほど親しくはなかったかもしれない。『神秘之日本』酒井勝軍追悼号(神秘之日本社、昭和15年11月)の「弔慰電報を賜はりたる御芳名」、「弔問弔詞を賜はりたる御芳名」や「御香奠、御供物を賜はりたる御芳名」に名前は見当たらない。ただし、後二者は「印刷原稿締切の都合上、以後の御芳名略」とあるので、省略された可能性はある。
 私は、学生時代の昭和56年8月21日~23日にUFO超心理研究会の後輩と葦嶽山ピラミッドに遠征した。同行したのは、2人のK君とU君の3人だったか。その時の写真を下に挙げておく。21日の夜は葦嶽山の頂上に皆でゴロ寝、22日は広島市内のU君の実家に泊めていただいた。葦嶽山に登ったマニアは多いだろうが、山頂に泊まった人はほとんどいないだろう(^_^;)
参考:「日本ピラミッドの父梅田寛一 - 神保町系オタオタ日記

*1:剣山に隠されたソロモン王の秘宝をめぐる怪しい人達(その1) - 神保町系オタオタ日記」参照

*2:久米晶文酒井勝軍:「異端」の伝道者』(学研パブリッシング平成24年8月)には、四宮憲章は出てこない。

*3:国会図書館サーチでは松本竜之助『明治大正文学美術人名辞書』(国書刊行会、昭和55年5月)もヒットするが、未見。追記:松本龍之助編『明治大正文学美術人名辞書』(立川文明堂、大正15年)の複製版で、四宮憲章に関する記述は同内容。

*4:徳島県阿波市市場町尾開

*5:国会図書館が4号-9号(明治27年7月-12月)を所蔵