神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

医学生で京都帝国大学基督教青年会の谷口善之が残した大正13年・14年日記


 書砦・梁山泊の島元さんからいただいた日記には、京大関係者の物が数冊あった。そのうち京都帝国大学文学部心理学教室の岩井勝二郎助教授の日記(昭和12年)については、「京都帝国大学文学部心理学教室第三代教授岩井勝二郎の日記ーー書砦・梁山泊から貰った日記にビックリーー - 神保町系オタオタ日記」で紹介したところである。また、京都大学人文科学研究所助手松尾尊兊の日記(昭和40年)については、『古本イエーZINE』5号(狂言屋、令和4年11月)の「松尾尊兊先生の古書探索記」に書いた。今回紹介する大正13年・14年の日記を書いた谷口善之は、当時京都帝国大学医学部の学生であった。泉孝英編『日本近現代医学人名事典1868-2011』(医学書院、平成24年12月)から経歴を要約しておこう。

谷口善之 
明治33年 愛知県生
大正15年 京都帝大卒
同年 解剖学[教室]入室・助手
昭和3年 新潟医大[講師]*1
昭和5年10月 京都帝大助教
昭和7年6月 大阪高医専教授
昭和21年4月 退職
昭和22年6月 大阪歯科医専教授
昭和45年3月 定年退職
昭和46年4月 城西歯大創設事務取扱
同年5月 同大教授(第2口腔解剖学)
昭和56年3月 退職
平成6年 没

 日記の内容は、日々の出来事のほか、聖書や友人からの手紙の転記が多い。幾つかの気になる出来事を引用しておこう。旧字を新字に改め、適宜句読点を補った。

(大正十三年)
◯本学音楽部より借入のオーボー[を]書留小包にて東京市外下落合四五一近衞邸内水谷川忠麿宛にて発送せり。
(八月廿一日正午)

九月廿一日 日曜日
(略)雨ををかして教会にだけは行く。久し振りに日高先生にお目に掛った。先生も風邪の気味らしく声がかれてる。奥田、鈴木、金子の三君にあった。

(大正十四年)
八月八日 土曜日
清水教会青年会主催の修養会に出席する為め、スマイス、武田の両先生と伊藤、国枝、古川君ら、それに名古屋教会より一名、瀬戸より二名、午后の郵便船で来られた。夜八時より公会堂にて発会式后、直ちにスマイス先生の創世記研究(二回のうちの第一回)あり。(略)

 「日高先生」は、「京大三高基督教義研究会と『フランダースの犬』最初の訳者日高善一牧師 - 神保町系オタオタ日記」で言及した室町教会牧師の日高善一と思われる。谷口のキリスト教信仰は以後も続き、『開拓者』34巻1号(日本基督教青年会同盟、昭和14年1月)の「青年会便りー関西地方部総会詳報ー」では、「京大Y副理事長」の肩書きである。「京大Y」は、京都帝国大学基督教青年会である。より詳しくは、『日本YMCA人物事典:われらまたこぞりて起たん』(日本YMCA同盟、平成25年9月)に立項されているようだが、未見。

*1:「講師」は、『新潟医科大学一覧 自昭和三年至昭和四年』(新潟医科大学昭和3年8月)から補った。