神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

第3回歯に関する趣味の展覧会に結集した加賀紫水ら愛知県の趣味人ーー『よはひ草』第3輯(小林商店広告部、昭和4年)からーー


 四天王寺春の古本まつりで、シルヴァン書房が30%オフをやってくれた台に『よはひ草』第3輯(小林商店広告部、昭和4年3月)があった。昭和3年4月10日から18日まで小林商店(ライオン歯磨本舗)が名古屋松坂屋で開催した「第3回歯に関する趣味の展覧会」の記録として刊行されたものである。この時期、大手拓次が同店広告部に勤めていたので、買ってみた。500円の3割引きで、350円。しかし、拓次の関与は確認できなかった。
 「歯に関する趣味の展覧会」と『よはひ草』は、『ライオン歯磨八十年史』(ライオン歯磨、昭和48年10月)によれば、

歯に関する趣味の展覧会 昭和2年11月には、東京・丸ビル内の丸菱呉服店を会場として、「歯に関する趣味の展覧会」を開催した。この催しは、歯に関する知識を趣味の点から扱ったもので、古今東西を通じて入手しがたい各種文献資料を、全国の趣味家・篤志家はもとより、学界方面からも共鳴と援助を得て、あるいは苦心して収集し、あるいは所持者から借用出陳するなど、一種の学術展覧会としても権威のある内容となった。
 (略)
 この催しは、引き続いて翌3年には、大阪、名古屋、京都などの都市においても行なわれたほか、ここに集められた文献・資料は、昭和3年から6年にかけて『よはひ草』全6輯として発行し、学界、趣味家、新聞社、図書館など各方面に寄贈され、貴重な資料とされている。

 本展覧会及び本誌(第1輯~第5輯・索引)は、山口昌男も『経営者の精神史:近代日本を築いた破天荒な実業家たち』(ダイヤモンド社、平成16年3月)の「ライオン歯磨の独創的広告戦略 初代、二代小林富次郎」で、高く評価している。

(略)これは大正の初め、日比翁助の三越百貨店が行った流行会と児童博覧会に匹敵するものであった。刊行物を残したことといい、それが第5回の川喜多半泥子のところでも触れた趣味家の集まりである集古会を核として刊行されたことといい、文化史に燦然と輝く仕事である。

 今回入手した第3輯でも趣味人や学者の協力は確認できる。「考証・文献の部」へ寄稿された中に、石田元季*1、尾崎久彌*2、信田葛葉の名前がある。また、出品目録には愛知県を中心に東海地方に住む多数の趣味人の名前が出品者として挙がっている。例えば、最近大向こうを唸らせたKamikawa氏の『深夜の調べ』(令和5年4月)所収「『土の香』総目次+解題+索引」で分析された雑誌『土の香』を主宰した加賀紫水である。加賀は、「教科書中の歯の教材に就て」を出品している。展覧会が開催された昭和3年4月は、Kamikawa著によれば、『土の香』が創刊された月である。忙しかったことだろう。
 太田清も出品していた。太田は、『土の香』に度々寄稿していて、Kamikawa著によれば、

四年も前の事と思う。一日加賀紫水という人からはがきが来た。なんの事かと読んでみると松坂屋にライオンハミガキ社主催歯の展覧会に僕が「尾張に於ける歯の神」という題の調査物を出品目録に入れたので其の原稿をくれとの事であった。僕はこの原稿が未定稿であるから途中出品を中止したので原稿を見せる事を謝絶した。(略)

と回想しているという。出品目録を見ると、太田は「名古屋市附近歯神調」を出品したことになっている。太田の回想に出てくる「尾張に於ける歯の神」と同一のものとすると目録に掲載されていても、実際は出品されなかったことになる。

 出品目録には、他に稲垣豆人、林魁一、岡戸武平、尾崎、信田、石田、濱島静波*3、富田一二などの『土の香』執筆者の名前が見える。山口が高く評価したわけである。