神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

明治36年堺市で創刊された投稿雑誌『遊子』(遊子会)


 『遊子』第10声(遊子会、明治37年9月)は、神戸の古書店つのぶえで買ったか。そうだとすると、300円位だろう。目次も挙げておこう。

 小杉榲邨「浮田一蕙がかける孝経の新意匠画」が載っていますね。これは、『近代文学研究叢書』11巻(昭和女子大学光葉会、昭和34年1月)所収の小杉の「著作年表」に記載されていない。で終わると、危ないところであった。
 よく調べると、同年表に『大八洲雑誌』巻之131(明治30年5月)掲載として出ていた。幸い国会図書館デジコレで読めるので確認すると、『遊子』掲載分は『大八洲雑誌』掲載分の一部であった。前者の末尾に「(此項未完)」とあるので、次声以降に続きが掲載されたのであろう。無断転載か小杉の承諾を得たかは、不明である。
 発行所の遊子会は、堺市少林寺町に所在し、編輯兼発行者は同住所の石崎義一である。「遊子会規則」も挙げておく。

 事業として会誌発行の他に、「書籍雑誌閲覧所を設くる事」とあるのが目を惹く。実現したのだろうか。会誌『遊子』についても、情報が少ない。奥付に明治36年12月内務省許可とあり、また、明治37年9月第10声発行から毎月1冊として逆算すると36年12月創刊ということになる。「グーグルブックス」で検索すると、『日本古書通信』24巻(昭和34年)に「文芸雑誌「遊子」第十号~第十四号迄五冊」「石崎義一編漢詩、和歌、俳句集明治三十年頃堺市にて発行のもの」と載っていると判るので、第11声以降も続いていたことになる。
 明治期堺市で発行された投稿雑誌としては、鷲見霞洲主宰の『ホノホ』(関西新詩社、明治38年7月創刊)がよく知られている*1。また、中野目徹編『近代日本の思想をさぐる:研究のための15の視角』(吉川弘文館、平成30年12月)の長尾宗典「「詩友交際」の思想世界」で活用された小木曽旭晃『地方文芸史』(教育新聞発行所、明治43年11月)によれば、堺市では久保蕗峰主宰の『鹿笛』(明治36年創刊)も発行されていた。これらの雑誌相互に交流があったかどうか。
参考:「福羽美静が明治14年に創設した好古社と小杉榲邨 - 神保町系オタオタ日記

*1:明石利代『関西文壇の形成:明治・大正期の歌誌を中心に』(前田書店出版部、昭和50年9月)に詳しい。