神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

福羽美静が明治14年に創設した好古社と小杉榲邨


 昨年の阪神百貨店の古本まつりにモズブックスが出品した中に、「好古社創立満二十年祝賀入社金割引券」(明治34年5月)と「好古社畧則」があった。3百円と手頃だったので購入。好古社は明治14年福羽美静が創設した蒐集家の団体である。昭和女子大学近代文学研究室『近代文学研究叢書第9巻』(昭和女子大学近代文化研究所、昭和33年9月)によれば、

(略)美静は自ら社長となって、佐伯利麿を幹事、加部厳夫、宮崎幸麿を補助として出発し、機関誌「好古雑誌」を発行した。又、春秋二季に会を開き、社員の中から古器物、古文書、古書画等の歴史の参考となるものを出品し、それを互に品評したりゆずり合ったりした。美静は約十年間社長を務め、明治二十四年にその地位を松浦詮伯爵に譲った。好古会の会員中には井上頼くに*1、小杉榲邨、木村正辞、岸田吟香、千葉胤明、鈴木弘恭等も名を連ねている。

 入手した「好古社畧則」の裏面には、社長が松浦伯爵、小杉と井上が副社長、宮崎と青山清吉が主事となっている。このうち小杉には多少関心があり、平成20年に開催された企画展の図録『郷土の発見:小杉榲邨と郷土研究の曙』(徳島県立博物館、平成20年4月)を持っている。小杉は、天保5年生まれの国学者である。この図録には年譜がないので、日本文学資料研究会編『国学者伝記集成続篇』(国本出版社、昭和10年1月)の年譜を見ると、明治32年9月東京帝国大学文科大学講師を嘱託され、国語学、国文学、国史第三講座に属する職務分担を命じられている。そして、明治34年4月には文学博士の学位を授けられた。この年譜は主に公的な発令しか載っていないので、好古社に関する記述はない。
 昨年刊行された國學院大學日本文化研究所編『歴史で読む国学』(ぺりかん社、令和4年3月)のコラム「国学への新しいまなざし」に「モノと国学者」(古畑侑亮)が立項され、「福羽美静が立ち上げた好古社では、学問を異にする様々な人物が集ってモノを考証し合い、その成果を雑誌として頒布するなど、各地の国学者がつながる場となっていった」と好古社が登場している。國學院大學博物館で令和2年に開催された企画展「古物(たから)を守り伝えた人々:好古家たち Antiquarians」には好古社は出てこなかったが、いつか展覧会で取り上げてくれるかもしれない。
追記:小杉については、『近代文学研究叢書』の第11巻で扱われている。

*1:「くに」は「くにがまえ」に「八」と「土」。一般的には「圀」。