神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大正末期に松本幸四郞や宝塚少女歌劇の公演を主催した都ホテル内のアートクラブとからふね屋印刷所

 
 三密堂書店をのぞいてきた。店内で特価200円の『アートクラブ第十二回例会松本幸四郎公演会』の冊子を発見。都ホテル内のアートクラブが大正15年11月29日岡崎の京都市公会堂で主催した松本幸四郎公演会の演目と脚本の一部(?)を掲載した31頁の小冊子である。

 そもそも歌舞伎を見たことがないので普通なら買わないのだが、「からふねや[ママ]印刷所」とあるのを見つけて、あわてて購入。からふね屋印刷所を創業(大正10年の創業時は、「唐舟屋印刷所」)した堀尾幸太郎と妹の堀尾緋紗子は、夢野久作と繋がる兄妹だった。詳しくは、拙ブログ「『書物礼讃』を印刷した唐舟屋印刷所の堀尾幸太郎・緋紗子兄妹ーー高橋輝次『古本こぼれ話〈巻外追記集〉』への更なる追記ーー - 神保町系オタオタ日記」を参照されたい。また、幸太郎は臼井喜之介の第2詩集『望南記』(昭森社昭和19年6月)の印刷者でもある。なお、「からふねや印刷所」の表記は、冊子と挟み込みのチラシの両方にあるので、誤植ではなく、「からふね屋印刷所」の前に極短期間「からふねや印刷所」と称した時期があったのかもしれない。いずれにしても、本冊子は唐舟屋印刷所から改称した最初期の印刷物ということになる。
 都ホテル内のアートクラブについては、不詳である。『京都府百年の年表』(京都府、昭和46年3月)によると、大正14年10月20日の『京都日出新聞』に「アートクラブ芸術鑑賞の会(都ホテル内)発足(毎月1回例会)」との記事が載っているようだ。都ホテル大正13年4月に新本館をオープンしているので、主要客である外国人客向けの余興を主催する会を新たに創設したのかもしれない。
 『近代歌舞伎年表京都篇第8巻』(八木書店、平成14年3月)によると、大正14年12月13日アートクラブ第3回余興として尾上泰次郎・松本金太郎の『越後獅子』、尾上栄三郎の『老松』などが上演された。また、15年1月24日にはアート倶楽部[ママ]第4回余興として都ホテルで宝塚少女歌劇(花組)の公演、昭和2年3月4日には市公会堂でシドニー・トムソン嬢の独唱・劇・舞踊が実施されているので、歌舞伎以外にも多様な「アート」を主催していたことがわかる*1。この都ホテル内のアートクラブについての研究は、存在するのだろうか。

*1:その他、本冊子に明春1月22日の舞踊に花柳壽輔が、哥澤に芝金が出演する旨の予告チラシが挟まっていた。