神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

出版史料としても使える『小中村清矩日記』(汲古書院)ーー上野図書館に寄贈された『歌舞音楽略史』ーー

国会図書館は小中村清矩『歌舞音楽略史』乾・坤(小中村清矩、明治21年2月)を2点所蔵している。1つは帝国図書館に寄贈され冑山文庫となっている根岸武香旧蔵書である。もう1つは国立国会図書館の印が押されたものである。明治の刊行時に内務省から交付されたかもしれない分は見当たらない。実は、それとは別に著者兼発行人である小中村が東京図書館、通称上野図書館に寄贈していたことが判明した。国学者である小中村の日記『小中村清矩日記』(汲古書院、平成22年7月)から『歌舞音楽略史』にかかわる記述の一部を引用しよう。

(明治廿年九月)
六日 (略)○さく日東京府より喚状来るにより九時出頭す。内務省よりの哥舞音楽略史の板権免許証を下附せらる。(略)
(同年十一月)
廿五日 (略)○内務省へ出板延期届郵便にて出ス。
廿六日 (略)内務省図書課行。招出し之為也。官吏面会。昨日音楽史出版延期届差出之事也。
廿八日 (略)○東京府音楽史出板延期届郵便ニて出シ。(略)
(明治廿一年二月)
廿四日 早期浅井来ル。江木へ廻り今日納本[三部]及定価六部分四円廿銭納候由[一部代七十銭]*1。(略)
(同年四月)
十日 (略)大学出(略)図書館へ音楽史壱部献納(略)上野図書館行、音楽史献納。手島ニ逢。(略)

『歌舞音楽略史』は、奥付によると明治20年9月3日版権免許、21年2月21日印刷、同月27日出版、70銭であった。明治20年11月の出版延期届に関する内務省東京府とのやり取りは当時の出版条例第5条で出版届及び版権願は地方庁経由で内務省提出とされているのに、内務省へ直接郵送したためと思われる。小中村は当時帝国大学文科大学教授。明治21年4月10日に同大学図書館に著書を寄贈し、上野図書館こと東京図書館にも寄贈したことが確認できる。「手島」は手島精一で20年12月21日の条には「図書館主幹手島精一氏より同館季報(廿年七月より九月ニ至)恵送」とある。国学者の日記でこういう明治20年代の出版に関する手続を垣間見ることができるとは、貴重で楽しめる。

小中村清矩日記

小中村清矩日記

  • メディア: 単行本

*1:出版条例第20条により、内務省への3部の納本と版権免許料として定価6部分の納付が定められていた。