神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

エコール・ド・プラトーンの時代に哥澤芝虎編『哥澤撰』(クラブ化粧品本舗)

f:id:jyunku:20190625190006j:plain
知恩寺の古本まつりでキクオ書店の和本300円コーナーから見つけた哥澤芝虎編『哥澤撰』。驚いたことに大正14年3月クラブ化粧品本舗(現クラブコスメチックス)発行なので購入。印刷所は京都市西洞院七条の内外出版株式会社印刷部、65頁。定価の表示はない。
f:id:jyunku:20190625190131j:plain
内容は哥澤による「うた沢」の選集。仮名垣魯文、河竹其水(黙阿弥)、小原芝石、半井桃水、幸堂得知らの作品が選ばれている。そもそも、「うた沢」とは、上原一馬『日本音楽教育文化史』(音楽之友社、昭和63年4月)によると、江戸末期に端唄から派生したもので、節を品よく優婉、繊細に静かに長く延ばして歌われ、三味線の前弾きがあるという。芝派と寅派があり、明治期には初世哥澤芝金が河竹黙阿弥と交際してうた沢が歌舞伎に取り入れられたため、芝派が優勢であったという。本書には哥澤芝金律・河竹其水述の作品も掲載されているので、芝派の作品ということになる。編者の名前も「芝」虎である。芝虎の経歴は不詳だが、『演劇年報』1975年版(演劇博物館、昭和50年6月)の「一九七四年物故者年譜」から要約すると、

歌沢芝虎
歌沢3代目師匠。本名安田五三尾(いさお)
昭和49年3月6日京都で死去、66歳

とある。同一人物だとすると、本書刊行時は17歳位になる。
f:id:jyunku:20190625201553j:plain
大阪の本おや(本は人生のおやつです‼)で入手した『百花繚乱 クラブコスメチックス百年史』(クラブコスメチックス、平成15年12月)の「年表」で本書発行時のクラブ化粧品本舗(中山太陽堂)を見てみると、

大正11年5月 プラトン社から雑誌『女性』創刊
大正12年10月 小山内薫プラトン社をたよって大阪天王寺に移住。以後プラトン社関係の作家の関西移住が続き、時ならぬ大阪文壇を形成
同年12月 プラトン社から雑誌『苦楽』創刊(大正13年1月号)、好評売り切れとなる。
大正13年1月 大阪、東京の中山文化研究所開所式
同年 大阪の文化研究所で毎月「科学と宗教」講座を開き毎回3~400人の聴衆を集める。
大正14年11月 大阪の文化研究所で第1回「信仰と迷信に関する通俗科学展覧会」を開催
大正15年・昭和元年1月 プラトン社より雑誌『演劇・映画』創刊

こうした時期にどういう経緯でクラブ化粧品本舗から本書が発行されたのか、さっぱり不明である。国会図書館サーチ、CiNii、日本の古本屋で本書はヒットしない。それどころか、発行所がクラブ化粧品又はクラブ化粧品本舗の本が存在しない。エコール・ド・プラトーンの時代における謎の冊子である。
(参考)「大正モダニズム下のプラトン社を描く永美太郎『エコール・ド・プラトーン』 - 神保町系オタオタ日記

エコール・ド・プラトーン 1 (torch comics)

エコール・ド・プラトーン 1 (torch comics)