神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

竹貫少年図書館を開館した竹貫佳水と日比谷図書館児童室

森銑三『明治東京逸聞史』を見てたら、日比谷図書館児童室が出てきた。

日比谷図書館の児童室(同上[『文藝倶楽部』明治]四十二・七) 思案の「本町誌」に、六月一日、帰社の途次、竹貫佳水君の案内で、日比谷図書館を見た。建築が奇麗で、小ぢんまりしてゐる。殊に小児部を設置してゐるのは、都下でもここばかりで、同部主任の佳水君が鼻を高くするのも無理はない、としてある。
その児童室へは、私も数回行つた思出を有する。思案は、児童室としないで、小児部などとしてゐるのは正しからぬ。

この日比谷図書館児童室の竹貫は、『日本近代文学大事典』によると、

竹貫佳水 たけぬきかすい 明治八・三・一〇〜大正一一・七・一二 小説家、編集者。群馬県前橋の生れ。本名直次。のち直人と称した。攻玉社に学び、陸軍測量技師となったが、のち江見水蔭の門下となり(略)明治三七年博文館入社、「少年世界」「中学世界」の編集に従事した。児童文学に作品が多く、育児園を興し、晩年は東京市日比谷図書館の児童室に勤務、この面での功績が大きい。

竹貫は群馬県出身者だった!
同じ児童室には中條辰夫(「中條辰夫という日比谷図書館児童部職員」参照)もいたはずだが、中條と比較すると竹貫の方が重要な人物のようだ。竹貫には、竹貫佳水名義の『読書法』(博文館、明治44年)や竹貫直人名義で日比谷図書館今澤慈海との共著『児童図書館の研究』(博文館、大正7年12月)がある。その他、竹貫直人名義で『太陽』明治42年3月号に書いた「児童図書館の仕組に就て」があって、それによると、

吾輩が半ば道楽的に私立少年図書館を青山に開設したのは明治三十九年の秋であつた。それが縁になつて、今度の日比谷図書館児童部にも関係することになつたので、いろいろと献策した処、幸に其大部分は採用されて、殆んど吾輩の理想通りの児童図書館が出来上つたのであつた。

明治39年秋という少年図書館の開館は、直人名義の「少年図書館」『少年世界』40年7月号によると、39年10月7日に第一回閲覧会を開き、爾来月々第一日曜日毎に開会しているという。そして、今回正式に文部省へ竹貫少年図書館設立を開申したという。この開申については、『図書館雑誌』第1号(40年10月17日)の「図書館消息」で「○私立竹貫少年図書館設置 東京府豊多摩郡千駄ケ谷町に同館を設置の旨去る七月上旬設立者より其筋へ開申せり」と確認できる。 

竹貫は大正11年7月12日没。同月19日付読売新聞に松美佐雄が「竹貫氏と図書館」を書いていて、竹貫の記述と異なる内容もあるものの、非常に興味深い。要約すると、

・竹貫少年図書館を創設し、文部省に届け出たのは、明治39年。文部省の係官はこのような私設の少年図書館をいかに取り扱うべきかに苦しんで、押し問答になった。竹貫は少年図書館の性質を動的なりとした。
・今日日比谷図書館が静的から動的へやや移りつつあるが、既に17年前に文化的図書館は動的ならざるべからずとして、そのような施設に向かって進んだ。竹貫は、少なくとも少年図書館は固定的なものではなく、随意に随所に公開すべきものと信じていた。
明治39年初春、この動的図書館を上野公園で開いた。既に半公開の少年図書館を有して書籍は豊富にあったが、費用が豊かでなかったので、友人田村西男の経営する公園内の三宜亭を会場に借り、竹貫と松美が電車で書籍を運んだ。雨戸を斜めに、座敷の壁に立てかけ、書籍を並べて「自由にとってお読みください」と札を貼った。日比谷図書館の児童室はその形式の進化したものである。
・この事業は日比谷図書館に児童室を設置する前提となって、竹貫が図書館頭渡邊又次郎を助けて、孜々としてその建設に向って猛進した。

松美は、竹貫が「少年図書館建設に向つて尽くしたる努力は、日本図書館史に特筆すべきことで、実に不滅といふべきであらう」とも書いているが、残念ながら竹貫は石井敦編著『簡約日本図書館先賢事典』に立項されていない。←訂正:立項されていた。

(参考)松美佐雄(まつみ・すけお)は本名戸塚峻、群馬県倉田村(yukunokiさん情報によると、正しくは三ノ倉村)生。土屋文明記念文学館編『群馬の作家たち』に出てくる人ですね。
追記:「雀隠れ日記」の「児童文学者 竹貫佳水」参照。赤星隆子『児童図書館の誕生』によると、『竹貫佳水君小傳』(博文館、大正11年)、石井敦「児童に対するサービスの開始(13)私立竹貫少年図書館」『ひびや』135号があるようだ。

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