神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『子供の科学』の表紙・記事を分析した神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:〈手づくり〉と〈自作〉の近代』(青弓社)

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 昭和12年10月柴田宵曲は、大橋図書館日比谷図書館である雑誌を探していた。大正13年に創刊された『子供の科学』(誠文堂新光社)である。『日本古書通信』昭和58年3月号掲載の「柴田宵曲翁日録抄(21)」から引用する。

(昭和十二年)
十月二十二日
 午後大橋図書館行。森氏より申越されし「子供の科学」しらべしに昭和六年以降の分ならべはなし。市町村史つぎ/\借る。収穫乏し。
十月二十五日
 午後日比谷図書館に行く。はじめてなり。少時一度来りしは児童室のみ。而も「子供の科学」は児童室なりといふに、その方に行きてたづねなどす。古きは存せぬよし。「もめん随筆」借りたれどなし。(略)森銑三氏を訪ふ。

 『子供の科学』のバックナンバーを探したが、見つからなかったようだ。現在でもすべてを閲覧するのは一苦労のようで、第2部「〈自作〉する少年共同体」で創刊から昭和35年までの同誌の表紙・記事を分析した神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:〈手づくり〉と〈自作〉の近代』(青弓社、令和元年6月)には、次のようにある。

[付記]第2部で分析した「子供の科学」の資料収集にあたっては、各地の図書館に大変お世話になった。本調査の資料は兵庫教育大学附属図書館、東京都立多摩図書館昭和館、北海道道立図書館、夢の図書館、国立国会図書館国立科学博物館天理大学附属天理図書館の蔵書を利用した。(略)

 しかし、これらの図書館を使っても「どうしても収集できなかった号などもあった」という。戦前からの雑誌を研究するのは大変である。
 「第5章科学雑誌から生まれた工作趣味、鉄道趣味ーー戦前/戦中/戦後の「子供の科学」の内容分析から」(辻泉)によると、戦前分(大正13年昭和5年)の表紙に「登場するヒト、もの」で最も多いのは「その他の成人男性(およそ二十歳以上)」が41.9%、次いで「少年」が37.8%である。確かに家蔵の昭和3年11月号は、特集が「素晴しい昔の文明」であることもあって、ピラミッドやスフィンクスの前でラクダに乗る成人男性と思われる人物だ。目次を挙げておく。
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 森銑三「地理学者古川古松軒」が掲載されている。柴田は森の記事が載った号を探していたのかもしれない。
 「戦中」(昭和6年~20年)の表紙で最も多いのは、「すべての飛行機」42.6%(うち「戦闘機」24.3%)、次いで「全ての船舶」34.9%(うち軍艦18.9%)である。家蔵の昭和13年2月号及び5月号は船舶である。「戦後」(昭和21年~35年)の表紙で最も多いのは、「そのほかの機械類」15.3%、次いで「その他の動物(魚類、爬虫類、哺乳類など)」14.8%である。家蔵の昭和21年5月号は、プランクトンである。なお、『趣味とジェンダー』は、『ジュニアそれいゆ』と『子供の科学』という少女雑誌・少年雑誌の分析により、手づくり趣味の近現代史を研究したもので、両誌の比較が面白い。
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ISBN:9784787234520:detail