黒岩比佐子さんは、2007年古書展で二冊の意外な本に出会ったという。一冊は、東京古書会館で見つけたクロポトキン著、幸徳秋水訳『麺麭の略取』。新渡戸稲造の『武士道』に偽装され、荒川義英の署名があったことなどについては、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』に書かれている。
もう一冊は、南部古書会館で見つけたジョセフィン・コンガーの詩集である。小原与三郎に贈られたものであることなどは、「古書の森日記」に書かれているほか、「『武士道』に偽装した『麺麭の略取』とジョセフィン・コンガーの詩集」『初期社会主義研究』20号に詳しい。同寄稿には、「献辞には「金子ジヨセフイン舊著」と書かれていることから、小原与三郎にこの詩集が贈られたのは、コンガーが金子と結婚した後なのは間違いない。小原与三郎の名前は、本誌第十九号に大橋(秀子)氏が書かれた「金子喜一における社会主義フェミニズムへのアプローチ−−若松賤子そして樋口一葉との交流をとおして」に登場する」とある。大橋氏は、同誌などに書かれた論文を基に、先月『金子喜一とジョセフィン・コンガー――社会主義フェミニズムの先駆的試み』(岩波書店)を刊行している。
なお、金子とその妻コンガーに関しては、北村巌『金子喜一とその時代』という文献もあって、昨年10月16日に言及したが、同書の「あとがき」には「本稿は金子喜一研究の第一人者、大橋秀子氏の多くの優れた研究論文に啓発され、執筆したものである」とある。
黒岩さんは、今年の桜も大橋氏の新著も見ることはできなかった。残された私たちが、黒岩さんの分まで楽しもうか。
金子喜一とジョセフィン・コンガー――社会主義フェミニズムの先駆的試み
- 作者: 大橋秀子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/03/24
- メディア: 単行本
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