神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

戦後新聞漢字事件簿

昭和21年11月16日「当用漢字表」が公布された。「編輯」の「輯」の字が収録されていないことから、そのことだけでも新聞社では大騒ぎがあったようだ。同年12月9日六社編輯局長会議が共同通信で開催され、「集」と「修」のいずれを「輯」の代用字として用いるかを議論した。毎日新聞東京本社の森正蔵の日記*1によると、

各社の意見は、朝日−東京が集で大阪、西部が修、共同−はじめ修を用いたが今では集が有力。東京新聞−集。読売−各社の決定を見てから決定。時事新報−輯を固執。そして本社は東京が集をすでに用い、大阪は修を主張し、西部は大勢に従うということになっている。
そして今日の会合で出た意見は
一、「修」には官僚臭あって不可(共同、朝日高野個人の意見)
一、「修」はこの次の漢字制限で除かれるおそれあり。「集」ならばなほながい余命がある(僕の意見)
一、「集」の簡易性を尊重すべし(僕の意見)
一、「輯」にはアツメルの意あり、「集」こそこれに代るべきもの「修」はカザル、オサメルでアツメルの意なし(共同)
一、「集」の字は安っぽい感じがする。集配人、集金人のたぐひ(雑音風にその説つたわる)
こんなわけで今日の会では「集」説が圧倒し、共同は即日で「集」で統一すると云ひ出したが、本社や朝日が大阪の意向を聞いてみる必要に迫られているので、決定には暫く時を貸すことにした。しかしこれは今月中に決定を見る内約が出来た。


日記によれば、毎日大阪本社の本田という抵抗勢力が、「「修」を譲らない」と言ったりしたようだが、12月11日には「集」でまとまっている。

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田中貴子先生が愛読しているらしいハインラインの『夏への扉』の新訳版(早川書房)が出たらしい。「ドウテイさん」は、出てくるかすら(参考:「http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/searchdiary?word=%a5%c9%a5%a6%a5%c6%a5%a4」)。
夏への扉[新訳版]

*1:『あるジャーナリストの敗戦日記』ゆまに書房、2005年8月。