神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

堀一郎と偽史運動(その2)


戦前小島威彦らスメラ学塾のメンバーが盛んに著作活動の拠点としたのはアルスや欧文社(旺文社)であった。アルスにおいては、ナチス叢書や世界戦争文学全集を刊行している。藤澤親雄『戦時下のナチス獨逸』(アルス、昭和16年1月)の巻末には、ナチス叢書として51冊の書名が掲げられ、以下続々刊行とある。この51冊がその時点で刊行されていたかは不明であるが、その中に堀一郎ナチスの宗教政策』が入っている。昭和16年9月にはナチス叢書として丸川仁夫ナチスの宗教』が刊行されているので、堀の方は刊行されていなかった可能性がある。


欧文社の総合雑誌『新若人』については、既に佐藤卓己氏の優れた研究があるが、小島・藤澤も執筆していたことは昨年5月9日5月16日などで言及したところである。この二人の他にも国民精神文化研究所の職員が執筆していて、次の論考もその一つである*1

かやうに古代文明の支配者の伝説を綜合し検討して見ると、何処に於ても神と云はれ、神の属性を持ち、「日の御子」と称されてゐる。これは西はエジプト、スメリア、インド、インドネシアミクロネシアメラネシアポリネシアアメリカ、オーストラリア、等皆同一である。(中略)
かやうにして古代の文明は現代文明の祖先達によつて侵略奪取せられたのである。(中略)
しかるに神秘なる神話の世界は東海日出処の国に於て独りその主体性を確保し、悠久幾千年の間、その神話と信仰は血を以て伝承信順せられて来た。日の神は独り我国にのみ垂迹せられ、その古代世界の復活は、天業恢弘、天下光宅の大御業として、畏くも天孫降臨、神武東征以来一貫して国史の上の懸案であり、民族の課題となつた。(中略)八紘を掩ひて宇と為す雄大なる世界観は、又この神話の国の建設といふ「日の御子」の御鴻業の直截簡明なる表出であつた。今や皇軍は古代世界の到る処に赫々の戦果を挙げて御稜威は爛々として我等が古き同胞の上を光被し給ふ。スメラアジアは今こゝに復活せんとする。(中略)
誠に大東亜共栄圏とは古代「日の御子」の国の謂ひである。大東亜戦争はこの神の国の建設の戦でなければならない。


小島か藤澤が書いたかと思いきや、堀一郎とあった。

*1:「「日の御子」の伝説」『新若人』昭和17年4月号