神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

 ナチス叢書の書誌はありやなしや


アルスのナチス叢書について、中井英夫*1が次のように述べている。


ナチスといえば、そのむかし日本でも、昭和十五年から十六年にかけて『ナチス叢書』というシリーズものがアルスから出た。責任編集は駐独大使で陸軍中将の大島浩閣下、執筆者には白鳥敏夫とか奥村喜和男、平出英夫といったなつかしい名前が見えている。日独伊枢軸論、ナチス独逸の世界政策、ナチス国民経済、ナチス思想論、ナチス外交論、神話論、党発達史、民族論、社会政策、史学、音楽、婦人問題、なんでもかんでもナチスをあたまにくっつけた数十冊のこの叢書は、いまでも神保町で一冊五十円くらいで売られているけれども、これらおびただしい集団発狂の実録シリーズが、たった五十円ということはない。狂った脳の断面が詳細に叙述され、中に吹き出た狂気という無気味な腫物を臨床的に調べられるだけでも、この値段は不当に安すぎる。


中井はどういうわけか、小島威彦に言及していないが、大島とともに、小島もナチス叢書の責任編集者であった(5月29日参照)。ちなみに、『ナチス・独逸の世界政策』は小島の著書。


阿部良男編集著『ヒトラーを読む3000冊』(刀水書房、1995年2月)では、ナチス叢書の『独逸精神』(グラーフ・フォン・デュルクハイム/橋本文夫訳、アルス、1941年6月)の解説として、「ナチスの本質を解明するために51冊の出版が予定され、1941(昭和16)年当時そのうち18冊が刊行されたナチス叢書の一冊」と記されている。NDL-OPAC等によれば、18冊より多く、51冊の半分近くが刊行されているようだ。誰か、書誌を作成した人はいるかしら。

*1:初出「誰が鞭を持ち始めたのか−ナチは復活するか」、「映画芸術」1970年4月号。『中井英夫作品集』Ⅵ所収