神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

月の輪書林と丸山真男


丸山真男の安田つたゑ(故安田武夫人)宛書簡(1994年8月25日消印)*1によると、


貴信をいただいて間もなく、私の書いたものの目録をつくっている若い友人から来信があり、「古書目録八−’94年7月号」*2に、安田君宛封書四通、ハガキ二枚(昭37)が二十万円という信じられない値段と共に掲載されていることが分りました。昭44年と昭45年の封書二通が「(中略)」はありますが、そのまま引用されているのもおどろきでした。しかし、現在の私は、そのこと自体にたいする慨嘆よりは、私の返信がかくも遅くなったために、つたゑさんが気にしておられるのではないか、私がフンガイして返事も出さない、と思っておられるのではないか−と、そのほうがむしろ気がかりです。むろん私信が売りに出され、それもバカバカしい値がつけられているのは愉快なことではありませんが、あなたが任意に処分したのでないことはよく分かっておりますし、こうした間違いはありがちな事です。どうかこの件は御放念下さい。むしろ、この件で、あなたが「月の輪書林」から「買い戻す」ということですが、そのことを前もって私に報らせて下さったら、「買い戻す」というような大へんな個人的負担になるような処置以外の方法がとれないものか、ということを、あなたを含めて知人と相談したであろうに、私の返信がおくれたために、それもtoo lateになったことと存じ、申訳なく存じます。(後略)


月の輪さんの当該行為は、法的には勿論、道義的にも問題があるわけではないが、古本屋さんをやっていると、いろんなことがあるみたいね。
将来、「伝説の目録」として記憶されることが当確である「月の輪書林古書目録」だが、丸山真男を憤慨させた目録としても記憶されることになるかもしれない。

*1:丸山眞男書簡集』第5巻(みすず書房、2004年9月)

*2:原注:『月の輪書林古書目録八 私家版・安田武』(一九九四年六月、月の輪書林