何年か前にリービ英雄氏と会ったとき、昔の文壇には
編集者というものがいて、作家への原稿依頼や原稿受け
取りや原稿料の支払いなど一切合財、編集者が全部やって
くれた。作家にとって、編集者は甚だ便利な存在であると
同時に、作家の生殺与奪の権を全部編集者に握られている
ようなものだから、編集者との応対には、それだけ気骨が
折れるし、大変厄介なものだった、とそんな話をすると、
リービ氏は意外なことに、
「いいなあ」と溜め息を吐いて、「古き良き時代とは、
まさにそういうことですよね、文壇というのはそこから
生まれてきたわけですね」と、しきりに文壇花やかなりし
頃の日本を誉め讃え、「そういう時代に是非、日本に来て
みたかった」と心底から羨ましげに言った。
今や、編集者なる者は存在しないのであろうか?