神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

12月31日冬コミで『戦時・占領期出版史資料索引ーー戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』を発売ーー公職追放になった評論家本荘可宗に注目!ーー


 『二級河川』17号(金腐川宴游会、平成29年4月)掲載のトム・リバーフィールド「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」は、重宝して拙ブログで何度も利用させていただいた。例えば、次のエントリーである。

「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」が完成 - 神保町系オタオタ日記
あらためて、その凄さを知ったトム・リバーフィールド編「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」ーー大日本言論報国会・国際政経学会幹部の公職追放者ーー - 神保町系オタオタ日記
公職追放に関する研究の進展を期待してーー公職追放になった女性の数すら不明な現状ーー - 神保町系オタオタ日記

 普通の人は、特定の個人が該当者かどうか、該当者の場合は該当事項を確認するのに使うだけだろう。ところが、私の場合は氏名と該当事項の全部を読んでしまうのである。しかも、何度も繰り返し読むのである。このリストは、読み返す度に発見がある宝の山である。
 例えば、本荘可宗(ほんじょう・かそう)という評論家がいる。経歴は、「本荘 可宗とは - コトバンク」参照。該当事項は、「著書現代人ノ課題国家ト個人等ニ於テ全体主義ヲ主張シ戦争遂行ヲ理論的に[ママ。以下同じ]キソ付ケタ」である。何度も読んだのにうっかりしていて、「現代人ノ課題」や「国家ト個人」が書名であることに最近ようやく気付いた。前者は『現代人の課題』(千倉書房、昭和16年1月)、後者は『国家と個人』(千倉書房、昭和13年12月)である。「著書」を該当事項とする文化人は多いが、具体的な書名まで書かれているのは、『アメリカはどう出るか:大東亜戦争と敵国の動静』(長谷川書房、昭和17年11月)を該当事項とする望月肇だけだと思っていた。ところが、2人目がいたことになる。
 本荘の当該著書は、国会図書館デジコレで読める。しかし、多忙と老眼のお年頃のせいで確認していない。読まなくても、おそらく「全体主義ヲ主張シ戦争遂行ヲ理論的にキソ付ケタ」と言うのは、随分買い被った認識だろうと推測できる。この公職追放該当事項に書名まで書かれた本荘についての先行研究はなさそうである。どなたか論文としてチャレンジしてみたらどうだろうか。
 なお、本荘の該当事項に「国家ト個人等」とある「等」については、占領史研究会編著『増補改訂GHQに没収された本:総目録』(サワズ&出版/さわや、平成17年9月)で推測できる。同書の「著・編・訳者別件数一覧表(五十音順)」で本荘の著書でGHQに没収されたものは3冊と分かる。残念ながら、著者名による索引はないので、あとは書名一覧中の著者名を全部確認する必要がある。そうすると、前記『国家と個人』のほか、『青年と死生観』(新興亜社、昭和19年7月)と『文化の転換』(良国民社、昭和17年12月)が見つかる。これにより、後者の2冊もおそらく公職追放該当事項の対象となった「著書」と推測できる。この公職追放該当事項の「著書」と前掲総目録を連関させるのは、柴田陽一『帝国日本と地政学アジア・太平洋戦争期における地理学者の思想と実践』(清文堂出版平成28年3月)で知ったと思う。
 さて、このように使えるリストの載った『二級河川』17号は実は品切れで入手できない。ところが、朗報である。同じくリバーフィールド氏が作成し、掲載誌が品切れ又は残部僅少となっていた「戦時の企業整備により誕生した出版社一覧(附・被統合出版社名索引)」や「出版社の「自社紹介」横断検索ーーミニ社史を見つける」とともに『戦時・占領期出版史資料索引ーー戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』(2千円)にまとめられ、冬コミC101で売られるのだ。2日目の12月31日(土)東ポ42aである。まだ持っていない人や持っていても1冊にまとまっていて便利という人は是非。詳しくは、「第19回 特別編・レファレンスツール『戦時・占領期出版史資料索引――戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』を冬コミで出します | 皓星社(こうせいしゃ) 図書出版とデータベース」を見られたい。
 「戦時の企業整備~」も便利なリストである。最近私が栗田英彦編『「日本心霊学会」研究:霊術団体から学術出版への道』(人文書院)に寄稿したコラムを書く際に役に立った。具体的には、霊術家から出版人になった関昌祐が創立した青年通信社について、戦時企業整備をされたのではないかとこのリストで調べると、たちどころに東洋経済新報社に統合されていたことが判明した。また、掲載誌を「広島桜氏」(某探偵小説研究者)に進呈して感謝されたこともあった。皆様も是非入手されたい。
 コミケでは、岸本元「小説を書いた国会議員たち」やリバーフーィルド「ライトノベル千本ノックーー3年間で1300冊を読んでみて」掲載の『二級河川』26号、河原努編著・小林昌樹解説『『出版年鑑』掲載全訃報一覧:昭和平成期著作家・学者・出版人7000人』なども販売されるので、そちらも是非。
追記:河原努編著・小林昌樹解説『戦時・占領期出版史資料索引:戦時企業整備・公職追放・ミニ社史』(近代出版研究所)が届いたので、書影を挙げておきます。収録された各リストについて、『調べる技術:国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』(皓星社)で時の人となった小林君の解説付き。