神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

坂本慎一『ラジオの戦争責任』(法蔵館文庫)への「補足」ーーラジオ新聞の戦争責任ーー


 坂本慎一『ラヂオの戦争責任』(PHP研究所、平成20年)が法蔵館文庫入りした。せっかくなので、版元の法藏館に行って購入。本書の「法蔵館文庫版・解説」によれば、

 その後、少し遅れて大きな反響があったのが、近代仏教史である。「ミスター・近代仏教」と呼ばれる佛教大学の大谷栄一先生によれば、『ラジオの戦争責任』は近代仏教史研究においてベストセラーになったそうである。今回、仏教書を主に出版されている法藏館から文庫になったのも、この延長上である。

という。確かに第1章で高嶋米峰、第2章で友松円諦と高神覚昇が扱われていて、近代仏教の研究者に注目されたのももっともなことである。大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎編『近代仏教スタディーズ』(法藏館平成28年4月)にも執筆されていて、吉永さんにも会う機会はあったのだろう。
 本書は、日本放送協会の戦争責任を問うものではなく、問うているのは文明の装置としてのラジオということである。そのため、ラジオ出演者の公職追放、ましてや各地の放送協会の役員の公職追放について補足するのは筋違いではあるが、あえて紹介して「補足」としよう。
 先ずは、放送協会の役員である。『公職追放に関する覚書該当者名簿』(日比谷政経会、昭和24年2月*1)から私が直接拾ったものではなく、トム・リバーフィールド「『公職追放に関する覚書該当者名簿』のメディア関係者・文化人五十音順索引」『二級河川』17号(金腐川宴游会、平成29年4月)から抽出した。なお、満洲の場合は放送協会ではなく満洲電信電話株式会社だが、同索引では記載が漏れているので私が気付いた役員のみ追加した。

片岡直道 日本放送協会常務理事総務局長
甘蔗義邦 朝鮮放送協会会長
小森七郎 日本放送協会会長
近藤確郎 朝鮮放送協会常務理事
清水市治 日本放送協会理事
関正雄 日本放送協会常務理事
瀬田常男 満洲電信電話理事
泊武治 台湾放送協会理事長
中郷孝之助 日本放送協会業務局次長
西邨知一 日本放送協会参事
土師盛定 朝鮮放送協会長
広瀬寿助 満洲電信電話総裁
深川繁治 台湾放送協会常務理事
副見喬雄 台湾放送協会理事長
保坂久松 朝鮮放送協会常務理事
吉田悳 満洲電信電話総裁
米沢与三七 日本放送協会常務理事

 次に本書に出てくる人物(ラジオ出演者に限らない)の公職追放である。

太田正孝 推薦議員
徳富猪一郎 言論報国会々長
下村宏 国務相情報局総裁興亜同盟顧問
鶴見祐輔 推薦議員他
東条英機 戦犯首相陸相興亜院副総裁軍需相内相外相商工相対満事務局総裁正規陸軍将校
友松円諦 翼壮区団長
山口喜三郎 東京芝浦電気社長

 本書によると「軍国主義を礼賛」するようになった友松でも、公職追放の該当事項は「翼壮」(翼賛壮年団)の区団長である。これについては、「日本最初のムー大陸紹介者三好武二と友松円諦の雑誌『真理』(全日本真理運動本部) - 神保町系オタオタ日記」参照。また、「玉音放送の仕掛け人」で「戦争を終わらせた男」とも言うべき下村も、その肩書きから公職追放は免れなかったことがわかる。
 これらの他、永井柳太郎、永田秀次朗、松岡洋右公職追放になるべき人物ではあるが、戦時中又は戦後間もなく亡くなっているので、公職追放にはなっていない。そもそもラジオ演説を理由として公職追放になった者はいない。著書、官職、団体役員などが該当事項である。
 ラジオに「戦争責任」があるのなら、「ラヂオ」を冠した『~ラヂオ新聞』にも戦争責任がありそうだ。しかし、公職追放の対象となる所謂「G項該当言論報道団体」に指定されたラジオ新聞はなかった。ラジオ新聞としては、次のようなものがあるようだ。

紙名      発行所      創刊年月
南洋ラヂオ新聞 南洋ラヂオ倶楽部 昭和7年6月?
日刊ラヂオ新聞 日刊ラヂオ新聞社 大正14年6月
北海ラヂオ新聞 北門日報社? 昭和3年10月
満洲ラヂオ新聞 満洲ラヂオ新聞社 大正14年10月
ラヂオタイムス 台湾放送協会 昭和8年1月

 この他、『昭和十年ラヂオ年鑑』(日本放送協会昭和10年5月)の「参考欄」に「ラヂオ関係新聞」が載っていて、そこにある広島新聞社の『帝国ラヂオ新聞』も気になるところである。なお、『満洲ラヂオ新聞』については、橋本雄一「声の勢力版図ーー鑑定州」大連放送局と『満洲ラヂオ新聞』の連携」『朱夏』11号、平成10年がある。また、『ラジオタイムス』は金沢文圃閣から『台湾ラジオ資料集』として復刻版が刊行されている。ラジオ新聞全体についての研究はまだ無さそうで、研究の進展が期待されるところである。

*1:奥付では昭和23年であるが、正しくは昭和24年である。「死してなお公職追放となった満川亀太郎 - 神保町系オタオタ日記」参照