神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

謎の奥付検印を残して消えた日本心霊学会の編集者野村瑞城


 これも知恩寺秋の古本まつりで三密堂書店から。野村瑞城『白隠と夜船閑話』(日本心霊学会、大正15年5月初版・同年11月9版)を200円で。実は、既に同書の戦前発行分と戦後発行分を持っているので、普通なら買わないところである。しかし、写真のようにびっしりと書き込みがされていて、面白そうだと買ってみた。こういう「痕跡本」*1を買うと、処分しようとする時に古本屋から「値段が付きませんが…」と門前払いされるので、よい子はマネしないように。
 赤鉛筆と青鉛筆も使った書き込みで、一種の芸術性すら感じる。本文への書き込みは傍線のほか自身の感想のようだが、遊び紙や扉などに書いてあるのは、「次世代デジタルライブラリー」で調べると他の本からの転記であった。伊藤尚賢・森繁吉『一人一人の体力精力能力増進法』(一誠社、大正10年12月)と慧鶴『白隠禅師寝惚之眼覚』(前田文助、明治30年9月)が確認できた。書き込みをした旧蔵者の正体は、不明である。16頁の書き込みには、「師ニバトーサレ、狂人ニ加害サレテ入悟セル白隠 坂根亀田岩崎師ニ引キズリヲロサレタル我 アヽ妙ナルカナ/\一九二九、四、十四」とあって、仏教者かもしれない。

 奥付も挙げておこう。奥付も書き込みだらけである。だが、それよりも検印に注目しよう。この検印の文字が謎である。瑞城の他の著作にも同様の印が押されていて、向きはこれで間違いない。瑞城の本名である政造の「政」の篆書かとも思ったが、違うようだ。蔵書印さん、助けて~
 瑞城については、栗田英彦編『「日本心霊学会」研究:霊術団体から学術出版への道』(人文書院、令和4年10月)の菊地暁「日本心霊学会編集部代表・野村瑞城(政造)の作品と略歴」によれば、明治20年滋賀県生まれ、日本心霊学会編集部代表者を務めたが昭和5年には日本心霊学会や後身の人文書院との関係が消え、最後の消息としては『民間伝承』10巻3号(民間伝承の会、昭和19年)の「新入会員氏名」に同名の人物の名があるという。家蔵の戦後発行分の瑞城著の奥付には「野村」と押してあった*2ので、本人が押したとすれば戦後も生きていて人文書院と連絡があったことになる。いずれにしても、瑞城は謎の奥付検印を残して消え失せてしまい、没年は不明である。
 なお、本書裏表紙にエンボス加工された社章と思われる桜マークの中の字は、「日本心霊学会」の「心」の篆書である。