神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

東京古書会館のあきつ書店出品から東洋大学の学祖井上円了旧蔵書を発見


 先週は、東京古書会館の特選古書即売展をのぞいてきました。皓星社では負けじと一箱古本市をやりましたが、やはり「特選」、いい本が安く出ていました。中でもあきつ書店から色々買えました。2日目だったのでいい物は残っていないかと心配したものの、本の追加がされたこともあって知恩寺秋の古本まつりの初日を欠席してまで東京に行った甲斐がありました。
 中でも驚いたのは、写真を挙げた東洋大学創立者である井上円了旧蔵の元良勇次郎『心理学』(金港堂書籍、明治23年12月初版・25年1月再版)でした。扉に「甫水井上氏蔵」印が押されている。「甫水」は、円了の号である。
 この印は、『近代蔵書印譜五編』(青裳堂書店、平成19年2月)に収録され、蔵書印データベースの「蔵書印DB甫水井上氏蔵」にも転載されている。

 更に、本書1頁には同印のほかに、「円了文庫」印も押されていた*1。この印は3種類の円了の蔵書印を収録した前掲書にもなく、更に7種類の円了の蔵書印を収録した『増訂新編蔵書印譜上』(青裳堂書店、平成25年10月)にも未収録である。ただし、平成24年丸善丸の内本店であった「東洋大学125周年記念事業図書館特別展示」の図録『存在の謎に挑む 哲学者井上円了』(東洋大学附属図書館、平成24年5月)掲載の哲学堂文庫旧蔵書である『捜神記・捜神後記』(元禄12年)や『日本霊異記』(赤井長兵衛、正徳4年)に「甫水井上氏蔵」印と共に押されているので、同文庫旧蔵書には多数押されていそうである。

 本書は、800円であった。あきつ書店が円了旧蔵書と承知の上で値付けしたのかは不明だが、私みたいに円了旧蔵書というだけで有難がるマニアがいるほか、本書は福来友吉の恩師である元良の著作である。その点でもポイントが高い。更には、あきつ書店の値札にも記載がある「朱点」である。これが円了によるものであれば、どのような箇所に関心があったのかが分かる貴重な情報となる。円了自身も本書より前に『心理摘要』(哲学書院、明治20年9月)や『心理学:通信教授』(通信講学会、明治21年8月)を刊行していて、心理学には相当の見識を有する学者であった。朱点と共にごく僅かではあるが、文字の書き込みもあり、円了の研究者には貴重な書物となる可能性がある。今年は「第4代東洋大学学長境野黄洋旧蔵の村上専精『仏教統一論』(金港堂、明治34年)を発見!ーーオリオン・クラウタウ編『村上専精と日本近代仏教』(法藏館)に寄せてーー - 神保町系オタオタ日記」で紹介したように東洋大学第4代学長である境野黄洋旧蔵書も拾っている。何とも東洋大学関係者の旧蔵書の当たり年である。

*1:そのほか、遊び紙には「京北中学校研究部」印が押されている。同校は、円了が明治32年2月に創立した。