『二級河川』17号(金腐川宴游会、平成29年4月)*1に掲載されたトム・リバーフィールド「『公職追放に関する覚書該当者名簿のメディア関係者・文化人五十音順索引』」で驚いた該当者は、満川亀太郎でした。満川は昭和11年5月に亡くなっているので、当然該当者名簿に挙げるべき名前ではない。該当事由は「国民思想研究国民思想代表者猶存社要職者」。猶存社の方はいいが、「国民思想研究国民思想代表者」というのはよくわからない。昭和12年7月7日から16年12月7日までの間に役職員であった者が公職追放となる新聞社、出版社、報道機関等のいわゆる「G項該当言論報道団体」の中に国民思想研究所がある*2。おそらく、「国民思想研究国民思想」は、国民思想研究所のことだろう。これは、『全国国家主義団体一覧 昭和十六年十月現在』によると、
国民思想研究所 麹町区幸町二ノ一 大阪ビル
創立 昭和七年五月
性格 「大亜細亜協会」理事中中谷武世ノ主宰スル会ナリ
役員代表者 中谷武世
会員 五名
また、国民思想研究所と満川の関係は、福家崇洋『満川亀太郎ーー慷慨の志猶存すーー』(ミネルヴァ書房、平成28年4月)によると、
下中や愛国勤労党の人々は、同年[昭和七年]六月に中谷武世らによって創刊される『国民思想』(国民思想研究所)の方に集った。同誌の主な執筆者は中谷、下中、鹿子木、佐々井、天野らで、満川も常連寄稿家のひとりだった。
である。結局、満川が国民思想研究所の代表者だったというのは確認できない。福家先生が名前を挙げているメンバーの該当事由を見てみると、
中谷武世 推薦議員行地社要財[ママ]者大亜細亜協会常任幹事大日本青年党評議員
下中弥三郎 興亜同盟理事運動第一局長皇国同志会理事大アジア[ママ]協会理事長
鹿子木員信 言論報告[ママ]会専務理事正規海軍将校著書
佐々井一晁 時局協議会世話人大日本党主席総務やまとむすび本部主宰著書
天野辰夫 勤皇まことむすび元主幹者
どういうわけか中谷の該当事由に国民思想研究所代表者がない。満川が「国民思想代表者」というのはおそらく間違いではないかと思われるが、福家先生に調べてもらわないと断定は難しいところである。
なお、該当者名簿は総理庁官房監査課編で日比谷政経会から昭和23年2月発行の奥付で刊行された。しかし、国会図書館所蔵本の奥付が24年に訂正されていて、この24年が正しい。昭和23年12月1日現在の公職追放関係法令集が登載されていることからそのことは確認できる。研究者でも訂正されていない奥付に依っていて、例えば増田弘『公職追放論』(岩波書店、平成10年5月)も昭和23年発行としてしまっているので、要注意である。
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