神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

昭和4年来日した大英博物館のローレンス・ビニヨンの英国水彩画展ーー高橋箒庵『萬象録』巻9(思文閣出版)と展覧会目録から見るーー

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 昭和4年に来日した大英博物館東洋版画・線画支部長ローレンス・ビニヨンについては、「昭和4年名古屋の富田重慶邸を訪問していた大英博物館のローレンス・ビニヨン - 神保町系オタオタ日記」で紹介したところである。5月にめでたく完結した高橋箒庵『萬象録』巻9(思文閣出版、令和3年)を読んでいたら、そのビニヨンが出てきた。

(昭和四年十月)
十一日
[英人ビニョン氏]
 午后一時、上野黒田記念館に於ける英人ビニョン氏携帯水彩画五十四点展覧会及ひ黒田清輝氏遺作を見物す。水彩画はターナア始め名作多く、何れも小品ながら其筆致の宋元画風に似たる者あるに驚きたり。
 午后五時、慶応義塾評議員会ニ出席。同七時半、三井八郎右衛門男のビニョン氏招待会ニ出席、団琢磨男の紹介にてビニョン氏と握手、当夜の光景はビニョン歓迎と題する茶道記ニ詳記すべし。

 このビニヨンが英国から運んできた水彩画の展覧会目録は、昨年知恩寺の古本まつりで玉城文庫から入手している。3冊500円のうちの1冊である。展覧会の主催は、「ビニョン氏招聘委員会」で、団琢磨大倉喜七郎、正木直彦、滝精一、姉崎正治、久米桂一郎、市川三喜、斎藤勇、矢代幸雄、団伊能などであった。上野の黒田記念館美術研究所で昭和4年10月12日から24日まで開催された。ターナーの作品は5点で、写真のとおりである。
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 そのほか、ウィリアム・ブレイクの作品が2点ある。何でも買っておくと、後から読んだ日記に関連する記述があった時に役に立ちますね。入手した目録は一枚物で画家と作品名しか書かれていないが、岩波書店から図版付きの目録が発行されている。それによると、ビニヨンが東京帝国大学での講演「英国詩歌と美術に於ける風景」の参考資料として持参した絵画を展示したものだという。
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