神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

古本バトルに持って行かなかった世界の秘密境特集の『科学画報』

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本の雑誌』6月号が特集「本の街の秘境に挑め!」ということで、秘境ネタを。今年1月に人文研でワークショップ「余白の宗教雑誌:宗教と宗教ならざるものの間」が開催され、番外編として「限界宗教雑誌バトル:書棚のすきまから」があった。バトルには私も出て、古本の師匠である岩本道人先生との師弟対決という名の古本自慢話を想定していたが、参加者が持ってきたレア本へのコメントを求められ、単なる古本オタクのオタどんにはやや冷や汗ものであった。お正月気分もまだ抜けていないオタどんは、宗教関係の研究者は知らなそうな雑誌とか本を幾つか持って行ったが、参加者の分に時間を取られ、全部は紹介できなかった。もっとも、参加者の持参された本が驚嘆すべきもので、本の紹介も研究発表レベルのものもあり、それはそれでよかった。岩本先生の分は、各発表者との関連も踏まえて戦前から戦後に至る宗教雑誌・オカルト雑誌の流れを俯瞰するメディア論とも言うべき構成のラインナップを揃えていたようだが、時間切れということでせっかくお持ちいただいた雑誌群の紹介は見送られた。
さて、当日は、大道晴香先生の「<秘境>の時代ーー「オカルトブーム」前夜としての60年代ーー」の発表もあった。70年代のオカルトブームの前史としての60年代の秘境ブーム、とりわけ後に大陸書房を興す竹下一郎による雑誌『世界の秘境シリーズ』を分析したものである。聞いていて、私は「しまった!『科学画報』の世界の秘密境特集号*1を持ってくればよかった」と思ったのであった。写真がそれで、特集と冠されてはいないが、

アラスカの原始部落を訪ふ 宮武辰夫
米食人蕃族の地を探る 布利秋(マスター・オブ・アーツ)
聖地西蔵の秘密 青木文教(本派本願寺室内部)
赤道直下の人外境スマトラの旅 田中館秀三(東北帝国大学講師理学士)
ツンドラと森林湖沼地帯の旅 黒田乙吉(大阪毎日新聞記者)
南半球の別天地マダガスカルの旅 大山卯次郎(法学博士)
宝境蒙古の秘密 長峰桂介(陸軍大佐)
天外の孤境パミール高原 柴山雄三郎(理学士)

の構成である。表紙絵は宮武の「オーロラとトーテムポールのアラスカ原始部落」である。宮武の肩書きがないが、巻末の「錦町より」には「アラスカ探検家として有名な宮武辰夫画伯」とある。宮武については、私も「原始藝術品蒐集者にして幼年美術研究者だった宮武辰夫のもう一つの顔」や「『田中恭吉日記』にひそめる宮武辰夫」などで紹介した人物である。科学雑誌でも活躍していたか。
国会図書館サーチで「秘密境」を検索すると、南洋一郎『南海の秘密境:冒険小説』(偕成社昭和15年)など用例が幾つかヒットする。より詳しく「ざっさくプラス」で「秘境」及び類似語を検索したら面白そうである。古本市で科学何とかという雑誌を見かけてもつい無視しまいがちだが、特に戦前の科学雑誌は要注意だとあらためて認識した。ちなみに、『科学画報』22巻6号、昭和9年6月の表紙絵はネッシーで、渡邊貫「ネス湖怪物の正体吟味」も載っている。まさしく、未確認生物・飛行物体まで扱った『世界の秘境シリーズ』に近似した号もあるようだ。

*1:『科学画報』15巻1号(科学画報社、昭和5年7月)