神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『藻塩草ーー武富義夫さんのことーー』を羨む

昨年、中上彩子さんから『藻塩草ーー武富義夫さんのことーー』をいただき、ありがとうございました。61頁、非売品限定500部の冊子(造本は真田幸治氏)である。昨年亡くなられた武富義夫という著作権仲介エージェントの追悼本。目次は、

なかにし礼 武富義夫追悼
郡司聡 Days of wine and books 酒と本の日々
坂崎重盛 ほんと、困る
川島幸希 妬まず、競わず、ムリをせず
池央耿 遠岬
北井一夫イカとエルマーレンズ
はい*1島亙 探書の師、猟書の仇
高見浩 彼のこと
土井尚道 そそのかす人
高山文彦 武富さんの思い出
緒方修一 Mr. ten percenter
白石征 尻切れトンボのエピローグ 武富さんの思い出
石田千 武富さんとおさる
梶屋隆介 ある時は「大人」、ある時は「村夫士」またある時は「笑うセールスマン」しかしてその正体は
鵜飼哲夫 長い夜 あゝ神保町の夜は更けて
真田幸治 珈琲を飲みながら
呉官起 武富さん
角川春樹 さらば、友よ!
河村季里 10箱のダビドフ・ゴールド6ミリ
編集を終えて

錚々たる執筆陣である。幾つか紹介しておこう。
なかにし氏は立教大学の英文科に入学した時に武富が「中西、お前、小林秀雄読んでるか」と声をかけてきて以来の友人。武富は、なかにし氏によく「歌を書くなんて真似はよせ。筆を汚すのはやめろ」と言ったらしい。だが、なかにし氏が仏文科に移り疎遠に。しかし、なかにし氏が直木賞を受賞した時に受賞パーティにふらりと姿を見せた。「やっと俺の言うことを聞いてくれたか」というような薄い微笑だったという。
川島氏の一文によれば、武富は小尾俊人氏の紹介で神保町の田村書店に足を踏み入れ、五十代半ばを過ぎて初版本の魔力に取り憑かれることになったという。そして、鴎外の初版本のコレクターとなったが、見事なのは人と争わずして稀こう本・珍本を手に入れたこととされる。『日本古書通信』に寄稿した「妬まず、競わず、ムリをせず」のタイトル通りの三原則を遵守したようだ。また、武富は彩子さんが神保町で経営していたバー「人魚の嘆き」の名付け親でもあったという。彩子さんが本追悼録を纏めるのに尽力したのは、特にそのような理由があったわけである。
本書の執筆者のうち、少なくない人達が古本仲間であったようだ。私も万一の時はこのような追悼本を作ってほしいなあと羨んでしまうが、果たして、私の古本道は「妬まず、競わず、ムリをせず」であったと言ってもらえるであろうか。

*1:草冠に配