南方熊楠、福来友吉、江戸川乱歩らが登場するというので柴田勝家『ヒト夜の永い夢』(ハヤカワ文庫JA、平成31年4月)を買ってある。乱歩と親しかった岩田準一も登場するらしい。また、皓星社から『岩田準一日記』の刊行が予定されているようだ。そういえば、伊良子清白の日記*1に岩田が出てくるので、紹介しておこう。
(昭和四年)
七月二十九日 月曜 (略)宮瀬氏の弟、岩田準一君より来書、「安乗の稚児」を見たいから詩集を借覧したいとの事なり 返事をかき日本文学全集を河村氏にことづける(略)
七月三十一日 水曜 (略)岩田準一君より詩集返送 礼状来る
伊良子はこの時期は三重県志摩郡鳥羽町で村医をしていた。「安乗の稚児」は『文庫』明治38年9月号掲載で、『現代日本文学全集』37篇(改造社、昭和4年4月)に再録されていた。
岩田の経歴は、『竹久夢二その弟子:絵入万葉集岩田準一画文集』(桜楓社、昭和54年1月)の岩田貞雄「亡父岩田準一」に詳しい。明治34年3月19日宮瀬東洋夫、岩田貞の三男として現在の鳥羽市に生まれた。生まれてまもなく父母は離婚し、母は実家の岩田姓を名乗り、準一を引き取った。大正14年神宮皇学館を中退し文化学院美術科に入学するが、昭和4年3月文化学院を中退し、鳥羽に帰っていた。兄の宮瀬規矩も変わり者だったようだ。
父の実兄宮瀬規矩も変りもので、神宮皇学館を卒業すると、新愛知新聞の記者となり、のちには朝日新聞の鳥羽通信部記者をしていた。短歌では伊良子清白に師事し、短歌雑誌「白鳥」を主宰していた。晩年は町内の大山祇神社の宮司をして歿するが、変った蒐集癖の持主で、街道で貼られる映画のチラシ等、人が破り棄てるようなものを大切に保存して、一人悦に入っていたものである。
弟が弟なら、兄も兄もである。映画のチラシのコレクターでしたか。チラシが残ってたら、お宝ですな。岩田は昭和2、3年頃から乱歩と男色文献漁りをしており、5年には『犯罪科学』で「本朝男色考」の連載を開始している。伊良子の「安乗の稚児」も岩田の文献収集の一環だったのだろう。
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