神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

村山知義の舞台装置「朝から夜中まで」(築地小劇場)が絵葉書になっていた

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昨年寸葉会で入手した絵葉書は、大正13年12月築地小劇場で上演されたゲオルク・カイゼル作、北村喜八訳、土方與志演出の『朝から夜中まで』の舞台装置であった。村山知義が担当したこの構成派の舞台装置が絵葉書になっていたのだ。平成24年世田谷美術館で開催された展覧会の図録『村山知義の宇宙』に掲載されている舞台の写真や模型とは微妙に細部が異なる。300円と安かったのは、未使用ではなく表面にびっしりと書き込みがあるためか。次のような文章である。なお、適宜句読点を補い、改行した。

御手紙拝見
御申越の洋紙三十帖、今日文祥堂より代金引換にて送る様にしておきました。(略)
今夜築地小劇場からの帰り笠原君と久し振りに銀座を歩きました。クリスマス飾りの季節となりましたね。此写真は今やつてゐますカイゼルの「朝から夜中まで」の舞台装置です。七場全部始めから終りまで幕なしで、スポットライトを使って此内でやります。
歌を読むことと小劇場、此が此頃の私の詩的生活の凡てです。小説は殆どよみません。「不二」もしばらく御無沙汰してゐます。此の偏りも恐らく一時的の現象にすぎないでせうが。
(略)
 十二月十、   万次郎   

宛先も書かれていないし、切手も貼られていない。封筒に入れて出したのか、知り合いに頼んで使送したのか。日付が12月10日なのか、それ以降の日なのか不明だが、同月5日から20日までの会期中であることは確かである。そうすると、この絵葉書はおそらく築地小劇場で売られていたのだろう。村山や築地小劇場の研究者には知られているだろうか。
文中の「不二」は、大正13年4月創刊の長与善郎、武者小路実篤志賀直哉倉田百三千家元麿、木下利玄らの同人雑誌と思われる。「笠原君」は不詳だが、この大正13年12月に富永太郎小林秀雄永井龍男らにより創刊された同人雑誌『山繭』の同人笠原健治郎と関係があるのだろうか。『不二』を読み、築地小劇場で演劇を楽しむ万次郎さん、あなたはいったい何者ですか。
追記:浅野時一郎『私の築地小劇場』(秀英出版、昭和45年9月)92頁に絵葉書と同一の写真が載っている。