神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

みやこめっせで拾った満洲冨山房の値札半券が付いた古本

古書展の初日は人も多く気忙しく、ゆっくりと本を調べる時間がない。わしがこのしょーもない棚を見てる間に林哲夫氏や書物蔵さんがトンデモない本を拾ってるかもしれないと考えると、気ばかりあせってしまうのである。その点2日目以降だと客の数も減り、あるいは数は減らなくても濃い古本者の比率が減るので落ち着いて本を選べることになる。今回のみやこめっせでも何回目かの訪問でじっくり見返しや奥付をチェックできて、面白い本を拾えた。年寄りの古本者であるわしは、いわゆる白っぽい本より黒っぽい本、最近は中でも痕跡本の類いに関心が集中している。今回は桑木厳翼『書・人・旅』(理想社出版部、昭和14年4月)の裏見返しに富士山を背景に「満洲冨山房/新京」と書かれた紙が貼ってあるのを見つけた。古書店の値札でよくあるような値札の半券のようだ。また、表見返しには旧蔵者が書いたと思われるが「昭和十七年九月二十一日/新京」と記されている。旧蔵者は満洲国の首都新京にあった満洲冨山房で本書を買ったようだ。
満洲冨山房について調べてみた。戸家誠編・解題『出版流通メディア資料集成(四)内地外地書店名鑑ーー明治大正昭和戦時期の本屋ダイレクトリーー』3巻(金沢文圃閣平成27年8月)で復刻された昭和17年12月現在の外地の『小売店名簿』によると、満洲冨山房は新京特別市豊楽路608にあり、代表者は坂本守正。冨山房創業者坂本嘉治馬の後継者である守正については、稲岡勝編『出版文化人物事典』(日外アソシエーツ、平成25年6月)にも立項されているが、ここでは『第十四版大衆人事録』外地/満・支/海外篇(帝国秘密探偵社、昭和18年11月)から要約してみよう。

坂本守正 日満文教・満洲冨山房各(株)社長、吉見書店・日本放送出版協会各(株)取締、冨山房(資)社長、田村町ビルヂンク(資)代表、坂本報效会理事長
[閲歴]明治23年3月10日神田区生、東京都伊藤徳兵衛三男。坂本嘉治馬の養子となり前名福松を改む。
商工中学卒業後冨山房に入り昭和13年先代嘉治馬の後を継ぎ社長に就任

満洲冨山房自体については詳細は不明で、国会図書館が浅田辰人編『音符解説忠烈吟詠教本』(昭和9年8月)*1を所蔵しているので、昭和9年には存在していたようだ。先行研究はないのかな。

*1:発行人は満洲冨山房と同住所の坂本守正。