神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

臨川書店のバーゲンセールで冨山房国民百科大辞典の禅宗関係原稿を発見

f:id:jyunku:20190731202405j:plain『本郷』7月号(吉川弘文館)で仏教大学を定年退職した原田敬一氏の「雛道具と生活史」に冨山房の百科事典が出てきた。

古書市で朝一番に行くと、必ず松尾孝兊先生と遭遇し、簡単な挨拶の後は、お互いに無言で書物を漁っているのが常だった。松尾先生が、文英堂の『民本主義の潮流』を書かれた際、図版には「木公文庫」とクレジットがあった。(略)古書市で丹念に集められた友愛会のパンフレットなどだった。確かにふだん店頭にはない薄い冊子や嵩張る冨山房の百科事典などは、古書市ならではの出品だった。

古書市で薄い冊子を掘り出すのはわしのお得意だが、冨山房の百科事典は買ったことはない。もっとも、数年前臨川書店のバーゲンセールで写真を挙げた『国民百科大辞典』(冨山房)の原稿を見つけた。禅宗には興味がないが、戦前の事典の原稿というのが面白そうだし、100円だったので購入。
著者の伊藤東慎は、『古寺巡礼 京都』6巻建仁寺(淡交社、昭和51年11月)の「著者略歴」から要約すると、

伊藤東慎(いとう・とうしん)
明治44年愛知県生
大正11年建仁寺両足院で得度。
昭和9年龍谷大学卒業。同年建仁寺僧堂に掛塔、竹田頴川老師に師事
現在、両足院住職、花園大学禅文化研究所員

昭和12年の時点では、龍谷大学を卒業して3年目、建仁寺で修行中だったようだ。原稿の内容は、

如一 白雲集[ママ] 法堂 原坦山 非時 百丈清規 普菴 普化 普寧 碧巌録 弁円 方丈 明詮 妙超 妙葩 夢中問答集 無門関 木菴 浴室 臨済宗 臨済録 臘八会 

最初は伊藤の原稿は大家の下請けかと思っていたが、幾つかの項目を確認すると、末尾に「伊藤(慎)」とあり、又、14巻の「寄稿家名鑑」(以下「名鑑」という)に「伊藤東慎 文学士。[仏教]」とあり、伊藤の名が明記されていた。面白いのは「如一」の項目は伊藤の原稿が採用されず、「奥山」(名鑑の奥山錦洞(日本書道担当)か)の原稿が採用されていた。原稿を頼む際には、項目を特定せずに禅宗関係から何十個と依頼して、他の執筆者と重複した項目は編集者が調整したのだろうか。
名鑑を見ていると、お馴染みの名前が色々あって面白かった。宗教関係では、仏教担当が17人、神道担当が4人、キリスト教担当が13人出ているが、別稿とする。他の分野では、荒木茂(ペルシア語・ペルシア文学)、斎藤昌三(挿画史)、杉浦非水(図案)、南江二郎(人形芝居・影絵芝居)、中村古峡(変態心理・迷信)、山田吉彦(ギリシア語)が目を引く。特に注目したのは、「佐藤了翁 易学専攻。満洲暦法顧問。[易]」である。満洲国と易学キター\(^o^)/という感じである。どういう人物だろうね、佐藤了翁。