神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

東京予防拘禁所旧蔵、岡崎文規『印度の民俗と生活』

知恩寺秋の古本まつりだ。林哲夫氏ほどは凄い本が拾えてないが、100円均一コーナーでそこそこ拾い物はあった。本書は、その100円均一コーナーではなく、津田書店で400円。千倉書房から昭和17年8月発行。普通ならタダでもいらない本だが、扉に「東京豫防拘禁所」と「収容者用」の印が押されていたので、購入。豊多摩刑務所(後に府中刑務所)内にあった東京予防拘禁所の収容者用の図書だ。
土屋祝郎『予防拘禁所』(晩聲社、昭和63年8月)によると、東京予防拘禁所には、著者の土屋の他、徳田球一、志賀義雄、福田和夫、黒木重徳、河田賢治、川内唯彦、松本一三らが収容されていた。彼らは、もしかしたら本書を読んだかもしれない。
東京予防拘禁所から津田書店に渡るまでの本書の来歴だが、もう一つ印が押されていた。「人民文庫」印である。印が押された紙が見返しに貼ってあるのだが、そこには「30.ーー」「a」「100」という記号も書かれている*1。「人民文庫」というのは不詳だが、敗戦後民間人、それも左翼の人が作った図書館だろうか。そうだとすると、治安維持法違反の思想犯を予防拘禁した収容所の図書室から左翼系の図書館に渡ったという、敗戦による政治・社会体制の大変動を体現する貴重な一冊である。
追記:『予防拘禁所』144頁には、

教導たちの控室には若干の図書が備えられていて、自由に閲覧することができた。軍事ファッショの時代となり、二・二六事件や結盟団事件に思想的根拠を与えたといわれる安岡正篤や筧克彦等の著書がズラリと並んでいた。

とある。

*1:函の背には「民二七」と書かれた紙が貼ってある。