三密堂の100円均一コーナーで何度か見かけて、どうしようと思っていたが、仏教唱歌集としては、古そうなので買ってみた。西村義嶺編『仏教唱歌』(井上教山、明治23年9月)。奥付を含めて11頁の小冊子。編輯者西村の住所は奈良県下大和国式下郡都村で、肩書は「融通念仏宗観学林所化」。発行者井上の住所は、大阪府下河内国渋川郡長瀬村で、肩書は西村と同じ。
「著言」には、
此ノ冊子ハ仏教法義ノ概略ヲ唱歌ニ記述シ偏ニ児女子ノ為ニスルモノニシテ其ノ深玄ナル理趣ニ至リテハ僅々数葉ノ盡ス所ニ非ズ志アル人ハ請フ広聖典ヲ閲覧セバ大ニ自心ニ得ル所アルベシ
とある。内容は、加藤恵証作の唱歌が4曲*1、西村作の唱歌が5曲*2、作詞者の記載のないのが1曲*3である。一つだけ「仏教の徳育」という曲を紹介すると、
宗の教へも種々ありて 何れも勧善懲悪の 教へに違ひは無れども
耶蘇教などは実学の 規則に背くこと多し 仏教ばかりは学問の
実理に恊ふのみならず 千五百年以前より 国の教へと定まりて
(以下略)
さすがキリスト教の讃美歌に対抗してできた仏教唱歌にふさわしい内容である。楽譜はないので、実際どのように歌ったのかはわからない。
表紙には、「(非売品)」「仏教唱歌」「印施」と印刷のほか、「上□/八尾進々館*4」の印が押されている。裏表紙には、「大阪市東区平野町四丁目 日進堂 印行」と印刷のあるほか、墨で「明治廿四年」「代価代八厘」「山上安之進」などの書き込みがある。
飛鳥寛栗『それは仏教唱歌から始まった』(樹心社、平成11年12月)には、
・明治22年浄土宗の岩井智海が、東京で「仏教唱歌会」を結成し、『仏教唱歌集・第一編』(法蔵館、明治24年)などを発行
・明治23年名古屋の法雨協会が『法雨玉滴』に発表した「法の深山」は大好評で全国に広がった。
・組織的な出版の外に、明治17年東京五明社より曼陀羅居士が『通俗日本仏教軍歌』、明治25年広島の熊谷智教が『仏教真理会唱歌集』を出版、同年下野仏教教和会(宇都宮町)が加藤精一郎『仏教唱歌集』を発行
などとある。明治23年発行の本書は言及されていないので、仏教唱歌集としては知られざる最初期の物であることがわかる。
- 作者: 飛鳥寛栗
- 出版社/メーカー: 樹心社
- 発売日: 1999/12/01
- メディア: 単行本
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