小田嶽夫『文学青春群像』に、慶應の図書館員加藤元彦が出てくる。
翌昭和三年の五月に私は日本へ帰った。「葡萄園」の編集者加藤元彦が本郷五丁目の千代田館という下宿屋にいたので、まっ先に彼を訪ね、幸いそこに空室があったので、私はそこに落ちつくことにした。（略）
ところで、加藤は編集の世話は焼いたが、自分では全然書こうとする気配がなかった。彼は慶大の図書館に勤めていたのだが、夜はいつもドイツ語を熱心に勉強してい、私が時たま訪ねても、文学談に熱を入れるようなことは全くなかった。新同人の連中の話では、彼は慶応のドイツ語の教師になるらしいとのことであった。
この加藤は、確かに慶應義塾大学図書館の職 員で、『慶應義塾図書館史』によると、同大学独文科卒、大正14年4月から昭和10年4月まで勤務し、その後慶應の予科教員になっている。『第十四版大衆人事録 東京篇』（昭和17年10月）を見ると、
日本近代文学大事典によると、『葡萄園』は、大正12年９月から昭和６年３月まで発行された文芸同人誌。加藤は、第一次分からの同人で、第二次分（昭和３年晩春~）では、編集発行人を務めた。小田は、第二次分から参加している。
なお、『三田評論』1996年12月号によると、同年７月１日没である。
