昭和二十一年三月二十五日、一高生原口統三が厨子の海で入水した。(略)日刊新聞と違ってかなりくわしく原口統三という学生について語り、最後に、遺稿が一冊のノートにまとめられているが、それを出版したいという意味の、友人橋本一明の談話が附されていた*1。ぼくはMという出版社の編集者だったから、今度は、その記事を見逃すわけにはいかなかった。一高生、自殺、遺稿、これだけの条件さえあれば、たとえ内容がどうであろうと、売れなくってさ!というようなものだ。ぼくは誰の紹介もなく、一高の寮をたずねた。
橋本が外出だったため、伊達は代わりに出た中村稔と出会うことになる。そして、原口の『二十歳のエチュード』は前田出版社から昭和22年5月刊行。原口に心酔した長澤延子の展覧会「夭折の詩人 長澤延子・中沢清展−17歳と22歳で逝った若者からのメッセージ」展が群馬県立土屋文明記念文学館で12月4日まで開催中だ。