再び、「ジュンク堂書店日記」から引用させてもらおう。
多少好評(?)だった柳田國男の『炭焼日記』に見るズショカンインの話の第二弾。
1 大西伍一(後の府中市立図書館長)
(昭和20年)
3月 9日 大西伍一君来、「村のすがた」一そろひを托し、片山氏に見せしめ、又自著若干を小出博士の文庫におくり了ぬ。
5月16日 大西伍一君リヤカーにて本をはこびに来る。是が六回目、(後略)。
5月24日 午後大西伍一君来、けふにてあらかた本をもつて行く、七回目か。
7月20日 大西君来、もう大抵本は渡し終る。
大西の略歴
大西伍一
昭和16年10月 東京高等農林学校事務兼授業嘱託
21年 6月 東京農林専門学校(東京高等農林学校改称。現在の東京農工大学)図書館事務
27年 4月 図書館司書資格認定(文部省)
36年 4月 府中市立図書館長
43年12月 同館退職
大西の回想(『私の聞書き帖』慶友社、昭和43年7月)によると、本の疎開の経過は、
空襲もだんだんはげしくなった昭和19年頃であったと思う。先生も「いつ焼け出される知れないから」とて、あのおびただしい蔵書の分散疎開をお考えになった。そして私が勤務をしていた東京高等農林学校の小出満二校長に無料寄託すると言われ、私がその実務を引受けて、何回となくお宅へ向い、自転車で、またリヤカーで運搬をしたこともある。
とのこと。
なお、大西は下中弥三郎(平凡社創設者)らとともに農民自治会運動を推進した人物でもあるらし。
2 森銑三
(昭和19年)
7月12日 森銑三君来、柴田宵曲君伴なひて始めて来る。
(昭和20年)
5月16日 中川深雪来、四月十五日夜の遭難の話をする。家は不思議にのこる。母を伴なひ是より由比に行くよし也。又森銑三君も本を焼いた話、是は隣の松村氏夫人*1よりもきく。
8月19日 森銑三君訪来、四月十三日の空襲にて一物ものこさず焼けたり。
森は刈谷町立図書館臨時雇い、名古屋市立図書館雇員、東大史料編纂所図書部雇員、蓬左文庫主任などであったのでズショカンインでいいのだろうね。「柴田宵曲翁日録抄」の昭和19年7月12日の条には、
「午後成城学園に到れば森氏已に在り、共に柳田国男氏を訪ふ。「浮世風呂」の輪講に見えし時以来なれば十年以上前なるべし。年寄られしやうおぼゆ。談緒多し。われは殆ど黙聴。五時頃辞す。「羽州羽黒山中興覚書」「黒百合姫物語」頂戴す」。
また、20年4月16日の条には、「動坂に至れば、川村君の家は無事。森氏の家は焼失せり」とある。
おまけとして、22年4月19日の条には、「森氏来。きのふ柳田氏を訪ひしよし」。
3 石田幹之助
(昭和20年)
6月8日 石田幹之助君珍しく来る、新著「南海奇談」贈らる。こちらからも「百穂手翰」・「日本の祭」などを呈す。此人女子三人、長女もう二十四といふ。孝が老人の如く取次ぎしも已むを得ず。東洋文庫などの話をする。
石田は、モリソン文庫主任、東洋文庫主任・主事を経て、国際文化振興会創立(昭和9年4月)早々、図書室の創設(昭和10年3月開館)に当たっているので、この人もズショカンインとしたよ(石田と国際文化振興会の関係については、『遺された蔵書』(岡村敬三著)中の「戦前期海外の日本図書館と国際文化振興会」を参照)。
石田は、柳田について次のように回想している。
「昭和十年頃から大藤時彦君が私の関係してゐた国際文化振興会に勤めるやうになり、同君を通じて先生の消息は始終伝へ聞いてをり、(後略)」(「柳田先生追憶」『定本柳田国男集第31巻月報』)。
余談だが、民俗学者大藤は、国際文化振興会で何をしていたのだろうか。元大橋図書館司書であり、戦後はCIE職員(CIE図書館員の可能性有り)なので、ズショカンの埋もれた先賢の一人かもしれないだすね。
(参考)石田の経歴は、2006年8月28日参照。
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黒岩比佐子『パンとペン』を読みつつ、浮気(?)して関連する『山口孤剣小伝』や『金子喜一とその時代』をチラチラ見てたら、堺とは関係ないが、面白い発見が幾つか。
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伊多波英夫『安成貞雄を祖先とす ドキュメント・安成家の兄妹』(無明舎出版、2005年)298頁に「もしか、安成貞雄がその執筆に関係したのではないかと前に書いた星一のSF小説『三十年後』の上梓は、その翌(大正)七年四月のことである」とあるが、「前に書いた」とは何を指しているのであろうか。同書中には出てこないようだが。
*1:石井柏亭の娘で松村七郎の妻三冬。2007年5月14日参照。