神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『近世科学の宝船』の著者高田徳佐は、マッド・サイエンティスト・ライターだったか?

黒岩比佐子『古書の森 逍遙』の書籍コード163は高田徳佐『子供達へのプレゼント 近世科学の宝船』(慶文社、大正14年2月初版、3月6刷)。黒岩さんのブログへのコメントには「ヨコジュンさんが紹介しているかは思い当たりません(かねてから、ヨコジュンさんが過去に紹介した雑書の一覧があったら便利だろうなあと思っており、誰か作ってアップしないかしら)」と書いてしまったが、なんと『日本SFこてん古典』の第1回「理科読本 炭素太功記」に登場していた。

このプレゼント叢書には、この本の他に『近世科学の宝船』『ペータヘンの月世界旅行』『私は電気であります』『生物界を溯るの記』『科学が生んだ宝物』などという、思わず手をだしてみたくなるような題名が、ずらりとめじろおしにならんでいる。ひょっとするとひょっとして『炭素太功記』をしのぐたいへんな本があるのではないかとも思われるが、現在ではまず入手は不可能。ただただ、ため息がでるばかり。

ヨコジュンさんが、入手不可能という本を黒岩さんは掘り出していたわけだ。しかも、五反田の古書展で、300円で入手したという。ヨコジュンさんなら、その10倍、20倍の値段でも買っていたのではなかろうか。この本の話は、横田順彌會津信吾『新・日本SFこてん古典』の167〜170頁にもあって、

(會津)意図するところはわかるけど、わけがわかんなくなっちゃている本というと、あの奇書『炭素太功記』を出した慶文堂書店というところから、同じシリーズで刊行された高田徳佐の『近世科学の宝船』(大正十四年)というのが、ちょっとすごいです。
(横田)ああ、その本、持っているのか。ぼくも探していたんだ。なんとなくタイトルがSFっぽいから、読みたいと思っていたんだけど、かなり、すごいの?

會津氏も入手していたようだ。また、會津氏は、「まさに、これを書いた人は、マッド・サイエンティスト・ライターですね」とも言っている。この高田の経歴を調べてみると、『昭和人名辞典』にも出ているが、より詳しくは、『理科教育史資料第6巻』所収の「人物辞典」(板倉聖宣作成)に出ている。

高田徳佐(1882〜 )石川師範をへて、1905年東京高師官費物理学化学専修科卒。11年以後38年間東京府立一中教諭。『ラジウムとエッキス線』(1915)、『理論/実験化学講義』(1915)、『物理学粋』(1916)、『中等教科理化学生徒実験用書』(1923)、『中等教科新制理化学』(1931)、『中学新化学』(1937)、『中等物象の基礎』(1945)などの受験参考書・検定教科書を著している。のち啓明学園教諭。

マッドだったかどうかは知らないが、理科の教諭としては、十分務まっていたようだ。また、下田次郎家には負けるが、子弟も高学歴ぞろいだ。『昭和人名辞典』で復刻された『第十四版大衆人事録 東京篇』(昭和17年10月)によると、長男一徳(大正6年生)京大卒、次女徳江(大正4年生)津田英学塾卒、三女綾威子(大正8年生)共立女子専門卒、四女裕子(大正10年)東京女子薬専在、七女八千代(大正14生)跡見高女在、次男樹徳(大正15生)麻布中在、三男徳博(昭和3生)学習院在。