神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

黒岩比佐子『古書の森 逍遙』(工作舎)への補足(その6)

松塚俊三・八鍬知広編『識字と読書 リテラシーの比較社会史』(昭和堂、2010年3月)所収の鈴木俊幸「明治前期における書籍情報と書籍流通−信州安曇郡清水家の書籍購入と兎屋誠−」によると、信州安曇野常盤村の清水家に残る文書群(長野県立歴史館所蔵)の中には、明治期の印刷・出版文化や書籍流通に関する他には見出しがたい生々しい史料が備わっているという。その中には、兎屋から共同購入した書籍のリストや、注文した書籍の不足分の督促状や、兎屋側の「発送済み」という返答、それに対する「決して届いていない」という再度のクレームなどが書かれた史料があるという。鈴木氏は、これらの史料により、「人を食ったような兎屋の派手な広告については、当時においても、地方の書店からその広告の用心すべきことを新聞広告していたりしたが、その商売の具体的な事例が示されたことはこれまでなかった。その商売には無理があり、取引には大きなリスクが伴ったこと、いかがわしいという証言・推測が、あながち不当ではなかったことをこれら清水家文書は証言している」としている。

兎屋の宣伝広告については、昨年4月25日同年5月9日で紹介したところである。また、兎屋の始めた書籍切手については、2008年11月17日同月20日に言及した。この書籍切手については、石塚純一氏の論文が、図書券との関係について、言及している。

明治十七年三月十九日には、「書籍切手発行之主意」という広告を出す(「報知」)。書籍切手とは、今でいう図書券のことである。さすがに全国共通どこの店でも使えるというわけにはいかなかったが、発想は明らかに図書券をめざしたものである。

黒岩さんも、『古書の森 逍遙』の書籍コード031で『文藝倶楽部』(博文館、明治35年11月1日)をあげ、博文館の図書切符を話題にしている。

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今週の黒岩さんの書評は、福岡伸一『ルリボシカミキリの青』(文藝春秋、2010年4月)。黒岩さんは、小学生の時、玉虫の虹色に「センス・オブ・ワンダー」を感じたという。私のセンス・オブ・ワンダー初体験は、おそらく『W3』のラストを読んだときである。

ルリボシカミキリの青

ルリボシカミキリの青