神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大アジア主義者と神智学徒


なにやら『英語青年』にも神智学が登場してるらしいので、戦前の大アジア主義者と神智学の関わりについてアップ。黒龍会の『亜細亜時論』*14巻5号(大正9年5月1日)所収の葛生能久「リシヤール・カズンズの両顧問を送る」に、

エシアン・レヴユー編輯顧問仏国法学博士ポール・リシヤール氏夫妻並に英人ホトソン嬢は、三月上旬を以て東京を去り印度に向はれた。之に引続き文学上の顧問たる英国の文学者カズンズ氏も、亦た同月中旬を以て同じく印度に去られた。(略)カズンズ氏は昨年度印度から慶應大学の教授として其聘に応じられた愛蘭産の学者である。氏は久しく其夫人と共に印度に居られたが、夫人は印度人の自由の為めに其心血を注いで全印度人から感謝の的となつて居るベーサント老夫人を扶けて、同老夫人の設立した或る女学校の教鞭を執られ、氏は又た彼の詩聖を以て名高きタゴール氏とは特に心契の間柄であるそうである。而して氏は特に宗教文学に造詣深く、其の志業はベーサント老夫人を会長とせるTheosophical Societyの宣伝にある。昨年慶應大学に来られてからは、学生に教鞭を執られる傍ら熱心に之れが宣伝に従事されて居たが、其結果日本人並に英米紳士の間に於て少なからぬ正会員と其信仰者とを得られたのは想ふに印度への此上なき好土産であらう。
我々が氏から本誌の文学顧問として快諾を得たのはリシヤール氏の口添によつたのであるが、(後略)


「カズンズ」(ジェイムズ・カズンズ)は、ma-tango氏によると、慶應大学客員教授を勤めた詩人で神智学徒。大正9年鈴木大拙夫人ベアトリスらと共に、神智学ロッジを結成した人らしい。The Asian Reviewについては、『亜細亜時論』の4巻4号(大正9年4月1日)掲載の「姉妹誌エシアン・レビユー発刊披露会」によると、同年3月6日に築地精養軒で開催された同会には、リシャール夫妻(仏)、カズンズ(英)、ケート(米)、ホトソン(英)、伊東知也、頭山満、小川運平、押川方義、大川周明、川島浪速、田中弘之、佃信夫、松村介石、秋山定輔、佐々木安五郎、木村鷹太郎、紀平正美、満川亀太郎、水野梅暁、信夫淳平、末永節ら約百五十名が出席したという。「ケート」はエラ・ケートであろう(4月5日参照)。大アジア主義者たちは、神智学についてどこまで理解していたであろうか。


(参考)昨年12月29日

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読売新聞の村上春樹氏インタビュー(中)によると、『1Q84』は「400字詰め原稿用紙に換算すると、1984枚」という。そこまで、凝るか・・・


なんと彩流社から、木村圭三『宮崎湖処子伝 甦る明治の知識人』。
宮崎湖処子伝―甦る明治の知識人

*1:引用は『黒竜会関係資料集8』(柏書房)による。